<お引越し・一日目>

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<お引越し・一日目>

「とりあえず、パパとママはこの宇宙灯台のシステム更新に努めます!!」 「ハーネとミーネはいらないものを倉庫に持っていくようにお掃除ロボたちに命令して、そのあとはロボの監視をしていてね」  メインコントロールルーム。管理システムを起動させた両親は子供たちにお手伝いを頼んだ。 『えー。パパとママの方が簡単そ〜う』 「何言ってるんだい? 専門知識がいる仕事だぞ!」  父親の言葉に反論ができなかった子供たちは、渋々掃除ロボットを灯台の中に連れてきた。ロボに灯台の中の地図がインストールされているのを確かめ、倉庫の位置をチェックし、指示用のレーザーポインタを片手に真っ暗な灯台内部の探索を始めた。  子供たちは探検気分三分の一、不承不承三分の一、新しい場所に対するドキドキ三分の一で、懐中電灯の灯りを頼りに最外周通路を進んでいく。 「とりあえず。この部屋からやるか。いいか、ミーネ隊員。オレは大物をチェックするから、お前は小物を担当するんだ」 「了解。隊長!!」 「じゃあ、開けるか!」  兄・ハーネがそう言って、扉開閉用のスイッチを押すと、真っ暗な部屋が口を開けた。二つの懐中電灯が部屋の中に向けられ、ぐるっと中を照らす。 「まだ明かりはつかないか」 「隊長……もしかして新種の宇宙生物とかいないよね? 襲ってくる怖いやつ」 「はっ、アニメの見過ぎだよ。ほら片付けよう」  そう言って兄は懐中電灯をランタン仕様に変えて部屋の天井にぶら下げた。一気に明るくなり部屋の様子がはっきりと分かる。  そこはかつてはトレーニングルームだったようだ。ランニングマシンをはじめとする様々なトレーニングマシンが整然と並んでいる。 「こんなものまで置いていったのか? まあいいっか。全部うちに最新式のやつがあるし」 「隊長。こんなもの運べるの? お掃除ロボ、」  ミーネの言葉が終わらないうちに、それらの機器が一斉に動き出した! 『え!?』  子供たちがギョッとして顔を硬らせる。最初はゆっくりだった機器の動きがどんどんスピードを上げて……。 『う、うわー!!』  何が起こっているのかはわからないが、想定外の事態に子供たちはダッシュでその場から逃げ出した。 「んんん? どうした? ハーネ、ミーネ?」 「幽霊でもいたっていうの?」  両親のいるメインコントロールルームに駆け込んで、なんとか息を整えると子供たちは全然わかっていない親に食ってかかった。 「幽霊いたの!! トレーニングマシンが勝手に動き出して!!」 「そうだよ! この宇宙灯台まだ電気とか復活させてないんだよな!」  だが、両親は本気で取り合わず、笑っただけだった。 「そりゃ、幽霊じゃなくって残念だったね。さっき電気系統を回復させたばかりだよ」 「機材が再起動したから、勝手に動き出したように見えたのよ」  両親の言葉に兄妹は顔を見合せキョトンとして、それから安心したように吹き出した。 「なんだ〜。ただの再起動だったんだ」 「ああ……。パパ! 電気通したんだったらそう言えよな。変なとこで驚かしやがって!」 「ごめんごめん。ちょっと手間取ってたからねぇ」 「この宇宙灯台で亡くなった人がいないのは確認しているわ。幽霊はいないから安心して」  母親の言葉に、子供たちは胸を撫でおろし、再び片付けに向かった。  トレーニングルームまで戻ると、マシンはいつの間にか動きを止めていた。 「タイミングが悪かったな」 「ああ。せっかく恐怖を煽るようにしたっていうのに……」 「あの子供たち、俺たちを怖がりもしてなかった」 「説明がついてしまったからな」 「わかってるさ! しかし!!」 「どうにかならんのか! こんなに詰め込みやがって!!」 「……今は、諦めるしかない。俺たちは自分では動けないのだから」
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