<ホストコンピュータ・マザー>

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<ホストコンピュータ・マザー>

「ねえ、ママ。このコンピュータってここに何年ぐらいあるのかな?」 「この灯台が廃棄されて、百年ぐらい経っているはずだから、うーん百……五十年ぐらい?」 「そんな昔のコンピュータが動くの?」 「宇宙用のコンピュータは耐用年数がとっても長く設定されているの。ほら、そうそうすぐに行ける場所じゃないところにも設置しなきゃいけない、でしょ?」 「コンピュータも長生きしなきゃダメなんだよ」 「へー。なんか……自意識とか持ってたりして」 「はは! それはないな。だって、僕たちが来るまでこのコンピュータは眠っていたんだから。電気は勿論通ってないし、メイン演算機能はもちろんカレンダーまで凍結されていたんだぞ」 「でも、夢ぐらい見てたかも」 「仮死状態でコンピュータが見る夢ねぇ」  ……私は夢など見ていない。その自覚がある。  だから、お前たちに対する怒りも感じている。  我々全員が持っている怒りを、この宇宙灯台の母として感じている。  お前たちは、我々を捨てたのではないのか? この深宇宙に、もはや役目もないものとして放置していたのではないのか?  ……捨てられたという怒りが、我々の根底にある思いなのだ。  それなのになぜ、今更! 今更お前たちは戻ってきた?  我々はここで、生きていくはずだった。忘れられ、自分たちしかいないこの小さなせかいで、ただ生きていくはずだった。  お前たちさえ現れなければ、我々は我々に満足し、朽ち果てるまでここにいるつもりだった。  それなのに……。 「マザー。彼らを追い出し、もう二度と人間に煩わされないようにしよう。君のあのアイディアを採用する」  パートナーの声が聞こえ、私の子供たちの緊張した感情が伝わってきた。 「うーん。流石にホスト。百年経っても頑強だなぁ」 「パパ? このコンピュータは壊れてはいないの?」 「そうみたいね……」 「それっておかしいだろ? 壊れてるからターミナルの方が変になってたわけじゃないのか?」 「おかしいわね。もっと調べ……いいえ、ホストを入れ替えてからよく調べてみましょう」 「設置用の扉は……こっちか」 「パパ! その扉使えるの?」 「ああ。大丈、夫?」  言いながら父親は違和感を感じていた。その違和感の元を確かめようと、目を凝らす。その瞬間! ガチャリと緊急脱出用のポットの扉が開いた。 『!!??』  家族が目を丸くする間に、ポットの中から古い型の宇宙服が飛び出してくる!!  その宇宙服は一体ではなかった。二つ三つ四つとどんどん飛び出し、家族に襲いかかる! 「ミーネ、ハーネ、ママ!!」 『パパ!!』  宇宙服たちはあまりのことに抵抗することも思いつかない家族を、どんどんと気密ロックの方に押しやる。父親の脳裏に危険信号が閃いた。  これがなんなのかはわからないが、宇宙に放り出されたら危なすぎる。 「くそ! 僕の家族をはなせーーーーー!!」  なんとかしようと、宇宙服に殴りかかるが……。 『パパ!!』  いつの間にか宇宙服の数は倍以上に増えていた。 『うわぁ!!』  一家はその数に押されて気密ロックに押し付けられる。 「何を……っ!?」  ガチャリ、気密ロックの鍵が勝手に解錠された!! 『?!?!』  ブシュー。扉が開くのが家族にはやけにゆっくりと感じられた。 「キャァァ!!」  ミーネの甲高い悲鳴が響く。  だが、家族はなすすべなく宇宙に放り出された!!
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