1.行きたく無い。

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1.行きたく無い。

『むかしむかし、山のふもとの小さな村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。 おじいさんの仕事は、炭焼きです。 山の木を切って、炭を焼いて俵(たわら)につめて、近くの町ヘ売りにいくのです。 でもおじいさんは、このごろ年をとって、仕事がつらくなりました。 「ああ、腰は曲がるし、目はしょぼしょぼするし、いやになってしもうたなあ」 その日も、おじいさんは炭俵をかついで、ヨタヨタと山をおりはじめました。 とても暑い日だったので、のどがカラカラにかわきます。 ふと見ると、道ばたにつき出た岩から、きれいな水がチョロチョロとふき出しています。 「こいつは、ありがたい」 おじいさんは、その冷たい水を飲みました。 「ああ、うまかった。なんだか腰がシャンと、のびたようだぞ」 おじいさんは、水のおかげで元気が出たのだと思い、深く考えもせずに山をおりて、家へ帰 ってきました。 「ばあさんや、帰ったよ」 「おや、早かったですね。おじいさん...!」 おばあさんはビックリ。 目をパチパチさせて、おじいさんを見あげました。 いいえ、おじいさんではなく、そこにいたのは、おばあさんがお嫁にきたころの、あのころの若いおじいさんでした。 「...わたしは、夢でも見ているんじゃあないでしょうかね」 おじいさんも、おばあさんにいわれてはじめて、自分が若返っていることに気づきました。 「若返りの水というのがあると聞いていたが、それではあれが、その水だったんだな」 おじいさんは、岩からふき出していた、きれいな冷たい水のことをおばあさんに話して聞かせました。 「まあ、そんなけっこうな水があるんなら、わたしもいっていただいてきましょ」 おばあさんはそういって、つぎの日さっそく、山へ出かけていきました。 おじいさんは、おばあさんがさぞかし若くきれいになって、帰ってくるだろうと楽しみにして待っていました。 ところが昼になっても、夜になっても、おばあさんは帰ってきません。 おじいさんは心配になって、村の人と山へさがしにいきました。 でも、おばあさんはいません。 「どこへいってしまったんだろうなあ?」 「キツネに化かされて、山奥へ連れていかれてしまったのとちがうか?」 みんなが話しあっていると、 「オギャー、オギャー」 と、そばの草むらの中から、あかんぼうの泣き声が聞こえてきました。 おじいさんが近づいてみると、おばあさんの着物を着たあかちゃんが、顔をまっかにして泣きじゃくっていました。 「バカだなあ。ばあさんのやつ、飲みすぎて、あかんぼうになってしもうた」 しかたがないので、おじいさんはあかちゃんを抱いて家へ帰りました。 』
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