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「たりめえよ! この前の見ただろ? 俺の素晴らしい演技を」
「て言っても、メインじゃ無いじゃん」
海人が愛想笑いで返す。
「やるよ。演技経験全く無いけど、折角だし」
「ホントに!?」
神木は喜びと驚き、二つの感情が入り混じった表情を浮かべて、手に持っていたノートを床に落とした。
「海人に言われて、私もやらせて貰うコトにした。だけど私も経験ゼロだからよろしくね」
風織も恥ずかしそうに言った。
二人の返答を聞いて、神木は両手をぐー、と天高く突き上げた。
「やっっっった──── !」
神木の叫び声に、部員が「良かったね」「念願の」と笑いかけている。
それだけ常々、自分を周りに話していたのだろう。
イジメられっ子の風織を助けたイジメられっ子。
そいつを追いかける十六歳の脚本家の卵。
佐久間も飛び跳ねて、神木にハイタッチした。
ホント、いつの間に佐久間は入部していたんだ。
「やったな神木! だから俺の言った通りだろ?」
「とか言って佐久間くんも不安がってた癖に! 五分五分って言ったのは誰だよ」
ぴょんぴょんと、うさぎのように海人と風織の周りを嬉しそうに飛び跳ねる。
竜が見たら呆れるな。
「俺の目に狂いは無いんだよ! ダサメガネと才色兼美人だぞ!」
佐久間は飛び跳ねた勢いで海人に抱きついて来る。
「ちょ、才色兼備の意味分かって言ってんの?」
抱きつく佐久間を押し返すが、それでも抱きつくのを止めない。
風織も意味を知らないらしく、一先ず笑っている。
自分のツッコミは、遠回しに風織をおバカと言っているようなもんだし。
「佐久間のお陰って言うのはホントだしね」
もう海人の言葉は聞いていない。
佐久間は抱きつくのは止めたが、肩に再び腕を回し、神木も逆の肩に腕を回して来た。
二人揃って「やった! やった!」と海人を巻き込んで喜びの舞を踊り始めた。
海人も巻き添えで、右に左に体が揺れる。
まだ怪我が完治していないのに。
冬休みが明けて直ぐ、佐久間に言われたのだ。
「はぁ?! 神木あいつ動画渡してねえのかよ!」
神木への返事を保留にしていた中、佐久間からも劇の話をされた。
話を聞くと、神木の脚本が通った地区大会用の劇に佐久間が出演していたという。
イジメで苦しんだ、ど真ん中の時期だったこともあって、断ってあやふやになっていた神木待望の脚本兼監督作品。
しかも佐久間の助言もあり、一組の同級生に声を掛けてモブ役をやって貰ったという。
「俺あいつに言ったんだよ。演技に興味無い奴誘うなら、先ずは自分の作品見て貰えって。自分の今出せる本気を見て貰えば、海人も考えを改めるに決まってるって。それくらい単純な奴なんだから海人は、って」
前半名言。
後半失言。
結果を作れ! をそういう意図で神木に伝えたという。
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