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その時の作品を佐久間は見せてくれた。
動画は演劇部の YouTube アカウントに載せてあった。
その作品は、神木が以前話していたように田舎の高校生の話。
十四歳で妊娠してしまったヒロインが、主人公の男の子が住む田舎町に引っ越して来た所から物語が始まる。
中々に責めた内容で、過去の人気ドラマを題材にした作品。
出来栄えはというと、物語自体は凄く綺麗にまとまっていた。
三十分という長くも短くもない時間の中で、起承転結が綺麗にまとめられていた。
けれど、その作品でキャラクター達を演じる演者たちを見て思った。
(俺の方が、まだマシな演技出来るだろ)
共感性羞恥というのだろうか。
臭い演技を見る度に、身を捩りたくなる。
大根役者のデビュー前じゃん。
と心の中でツッコんでいた。
そして気付いた。
自分も興味を持ってしまっている。
演者だけじゃ無い。
神木の作品において、あの場面のヒロインの台詞の間はもう少し長めに取った方がいい。
このキャラクターはあくまでもサブなのだから、主要人物より印象残っては弱くなる。
と脚本自体にも改善点を思い浮かべていた。
そんな SNS で誹謗中傷を垂れ流す、見えないクレーマー達のように外野から文句を言っていたのだ自分は。
その姿が、イジメを見て見ぬフリをしていた時を思い出した。
多分やらなかったら後悔するんだろうな。
十年後、まだ付き合いがあるか分からないけれど、皆で集まった時に YouTube に残っている動画を見返して、「黒歴史だー!」と羞恥心に苛まれて、酒を一気飲みしている姿も想像出来る。
やっても後悔するだろうけど、やらない方がもっと後悔している。
だから──。
「佐久間の演技も酷かったからね」
サラッと暴言を投げかけると、喜びの舞を踊る佐久間の動きが止まった。
そのまま海人の首に両手を回して来た。
「お前あの時は、結構うまいね、て言ってくれただろうが!」
「猿もおだてりゃ木に登ると思ったんだよ」
「さらに悪口重ねただろ! 意味はわかんねえけど!」
そのまま押し倒され、両足で海人の腕と体をガッチリと掴んで動けなくしてきた。
そして脇をくすぐってきた。
「貴様は死刑である」
「ちょっ!ぎゃー!」
身を捩って、逃れようとするがガッチリと固定されて全く動けない。
「風織も、見てないで助けてよ!」
風織はいつも通り、人数がいる場では話さない。アハハハ、と口を押さえて笑っているだけだ。
ただ最後に一言だけ漏らした。
「こんなにハシャイでる海人、初めて見た」
「まだ左腕完治してない、てぎゃー!」
自分は怪我してばかりだ。
泣き喚く海人の横で、神木は蹲った。
「そのまま新しい物語の概要説明するね」
「今!? ちょ、マジで、佐久間っ」
笑いすぎて、涙が出てくる。
こんな涙は初めてだ。
悲しさでも無く、嬉しさでも無い涙。
淳弥たちとのグループでは無かったノリ。
「佐竹さんには申し訳無いけどさ。俺の中で最高の青春物語になったんだよ」
神木は喚く海人を気にせずに語り出した。
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