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「迷言だね」
目を瞑り、思い浮かべる。
自分が描く世界観を。
「どうせなら若返りの水を出してみたいなー」
腕を組み、アイデアをひねり出す。
「風織があの時頭ぶつけて意識失ったでしょ?」
「結局海人も私をモデルにするんじゃん」
「その時には、風織は少しでも動かすと危険な状態なんだよ。だけど、一刻の猶予も許されない。スマホの電波も届かないし、人もいない。そんな時に現れるのが近くに住む小学生」
「竜くんだ」
「その子がいつもぶら下げてる瓢箪の中には、水が入ってるんだよ。実はお爺さんは、若返りの水を飲んで超長命の伝説の生き証人。九十近いのに元気なのは、その水を飲んでるお陰なんだよ。小学生が持つ瓢箪の水は、若返りの水。その水は小学生に何かあった時のために、常に持ち歩かせている。それを風織に飲ませるんだ」
「気失ってるのに、水飲めるの?」
「実は若返りって言うのは、意味が違った。飲んで人の時間を戻すんだ。怪我をした風織が飲むコトで、怪我をする前の風織に戻る。お爺さんもその理屈。五年前の体に戻る。だから老けない」
「凄い。事実は小説よりも奇なりだね」
「おっ、風織にしては難しい言葉知ってるね」
「あっ、バカにしたな」
風織は膨れると、小石をこちらに蹴飛ばして来た。
「ならさ」
風織は立ち止まり、海人を見た。
「コレはどう?」
風織は近付いて来て、眼鏡を外して来た。
視界がぼやけてはっきり見えない。
「うわ。海人って本当に視力悪いんだね」
ぼやける視界の中で、風織のシルエットがうごめく。
「ちょ、何すんの」
その瞬間だった。
唇に柔らかい感触が重なった。
「コレは脚本に入れないで」
「え」
海人は慌てて眼鏡を取ろうとした。
「まだ掛けちゃ駄目! 耳が凄く熱いもん」
今のって。
「じゃあさ、コレは脚本に入れていいでしょ」
海人はぼやける視界の中で、立ち上がった。
ドクドクと心臓が脈打つ。
未だに心臓の鼓動が止まらない。
でも、この鼓動はイジメられるかもしれない恐怖の鼓動じゃ無い、水で溺れるかもしれない
恐怖の鼓動じゃ無い。
海人が本当に大切な人に気持ちを伝えたいから聞こえる、胸の高鳴り。
「俺、風織のコト───」
胸の鼓動が鳴り止まないんだ。
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