失恋ソングを歌わないで

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失恋ソングを歌わないで

「~~♪」 真心(まこ)の歌声が聞こえ、凭れていたベッドを振り返る。 真心はうつ伏せの状態でスマホ画面をスクロールしながら、左右の足を交互に前後に揺らしている。 「何かいいことあった?」 僕はかけていたブルーライトカット眼鏡を外しながら訊ねる。 「ん? とくには何もないよ。なんで?」 「歌ってたから。良いことあったのかなって」 「そうだなぁ。強いて言えば、空代(あよ)が作ってくれたご飯で満腹になったことかな」 「~っ」 声にならない愛おしさが体の中心から溢れて来る。 あまりの幸福感に顔を覆って悶える。 真心がクスクスと笑う声が聞こえた。 「~~♪」 真心の澄んだ歌声は、いつ聞いても癒される。 幸せな時間で、大好きな時間だ。 だけど、今彼女の口から零れる旋律は胸が締め付けられるほど切ないもの。 僕はこんなにも苦しいのに、真心は楽しそうに笑みを浮かべて歌っている。 「真心」 「んー?」 「それ、失恋ソングでしょ」 「正解。最近よく聴くよね、これ。頭から離れなくてさ」 だからって、僕の前で歌わなくてもいいじゃんか。 僕は気持ちを隠すことなくムスッと唇を尖らせる。 「どした?」 「分かってるくせに」 「んっふふ。大丈夫、私は失恋してないから」 まったそんな可愛いことを言う! 「失恋なんてさせません! こんなに真心が大好きなんだから!」 「ありがとー」 真心はにへっと笑いながらも、頬をほんのり赤く染めている。 そんな姿さえ愛おしくて、もっと近くに感じたくて抱き締めた。
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