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「お願いだから失恋ソングを歌わないで!」
「私失恋しないんでしょ? じゃあ、関係ないじゃん?」
「そうだけどでもヤダ!」
「私もやだー。好きな歌歌いたいもん」
そりゃあ、好きな歌を好きなだけ歌ってほしい。
それを僕も一番近くで聴いていたい。
「でも歌詞がさ……。『さようなら』とか『好きでした』とか『バイバイ』とか。真心に言われてるみたいで嫌だ」
もう僕のことが嫌になった? 別れたくなった? だからそんな歌詞を歌って、遠回しに僕に伝えようとしてるの?
真心に好かれていると思っていたのは勘違いだった?
不安で押しつぶされそうになる。僕はこんなに真心が大好きなのに。真心も好いてくれていると思っていたのに。
ボソボソと理由を告げる僕の二の腕を掴んだ真心は、そっと体を引き離した。目を丸くして顔を覗き込んでくる。かと思えば、すぐに破顔した。
「んっふふ。もしかして、空代が不安になっちゃった?」
真心は僕の髪を優しい手つきで撫でた。
真心が触れてくれるだけで安心する。でも、真心はどう思ってるんだろう。
「大丈夫だよ、どれも言わないから。今も好きだよ、空代」
まるで僕の不安を分かった上で消し去るように、真心が僕の背中に腕を回して耳元で囁く。
「僕もだよ、真心。……もう失恋ソング、歌わないでね」
「……それは、ごめん」
ガバッと真心の体を離して詰め寄る。
「真心!」
「だってぇ! この曲、メロディーすごくきれいなんだもん!」
言いたいことは分かるし、真心の歌声で聴けるもの僕の特権だけど!
それでももう歌わないで欲しい、なんて思うのは僕の我儘でエゴだ。押し付けていることも分かっている。
それでも、歌わないで欲しいのに。
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