2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
失恋ソングを歌わないで
「~~♪」
真心の歌声が聞こえ、凭れていたベッドを振り返る。
真心はうつ伏せの状態でスマホ画面をスクロールしながら、左右の足を交互に前後に揺らしている。
「何かいいことあった?」
僕はかけていたブルーライトカット眼鏡を外しながら訊ねる。
「ん? とくには何もないよ。なんで?」
「歌ってたから。良いことあったのかなって」
「そうだなぁ。強いて言えば、空代が作ってくれたご飯で満腹になったことかな」
「~っ」
声にならない愛おしさが体の中心から溢れて来る。
あまりの幸福感に顔を覆って悶える。
真心がクスクスと笑う声が聞こえた。
「~~♪」
真心の澄んだ歌声は、いつ聞いても癒される。
幸せな時間で、大好きな時間だ。
だけど、今彼女の口から零れる旋律は胸が締め付けられるほど切ないもの。
僕はこんなにも苦しいのに、真心は楽しそうに笑みを浮かべて歌っている。
「真心」
「んー?」
「それ、失恋ソングでしょ」
「正解。最近よく聴くよね、これ。頭から離れなくてさ」
だからって、僕の前で歌わなくてもいいじゃんか。
僕は気持ちを隠すことなくムスッと唇を尖らせる。
「どした?」
「分かってるくせに」
「んっふふ。大丈夫、私は失恋してないから」
まったそんな可愛いことを言う!
「失恋なんてさせません! こんなに真心が大好きなんだから!」
「ありがとー」
真心はにへっと笑いながらも、頬をほんのり赤く染めている。
そんな姿さえ愛おしくて、もっと近くに感じたくて抱き締めた。
最初のコメントを投稿しよう!