ちょん

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「想像してみてよ。もし、蜂真くんが目を覚ましたときに、目の前で鼻息の荒い女子が迫ってきてたら、蜂真くんはどう思う?」 「興奮します」 「ダメーッ!!」 「あいたっ!?」  可愛く機嫌を損ねた彼女が、問題に正解できなかった俺の頭をチョップする。なんだろう、ご褒美かな?  床に正座させられた状態で、俺は何が起こっているのかよくわからないまま、彼女の美しい生足を眺めて、『我思う、ゆえに我あり』って深いなと感慨に耽っていた。  だって、デカルトさんはこの色白で滑らかな生足が偽物であるとしても、それに対して垂涎だらだらな俺はちゃんといるって言ってるんだぜ?  それは、まあいいとして。  そう。生足がよく見える位置って、やばいよね。  彼女は俺のベッドに腰掛けているので、当然俺の目の前に彼女の足が晒されるわけで、こんなの理性を試されているのかと疑ってしまっても無理はないだろう?  それに、淡いピンク色のキャミソールに同色のイルカパンツという姿は、最高です。眼福とはこのこと。    俺は容赦なきガン見で、対抗することにした。  そもそも、彼女は俺の『恋人』なんだから、このくらい許してくれるだろう。 「そういう目もダメ」 「なら、こうか?」 「いや、怖い怖いっ。目を全力で開けないで。ついでに、鼻の穴も大きくなってるから!」 「解せぬ」 「それは、わたしが言いたいよ……」  困った顔も可愛い。腰くらいまである髪もさらさらと流れるように綺麗だし、これは完全無欠の大和撫子と言ってもいい。  ああ、その髪に手を入れて、さわさわと振ってみたい。さぞ、気持ちいいんだろうな。  そんなことを考えていたからか。 「髪、綺麗だから、触っていい?」  気づいたときには、そう口走っていた。 「えっ……」  驚いて、固まってしまった。それから、困惑気味にはにかんでくれる。 「もう、しょうがないなぁ。引っ張ったりしないでね?」 「お、おお〜!?」  変な返事になってしまった。  いけるんだ。すげぇ。恋人とは、こんなにもドキドキさせられるものなのか。気が狂いそうだ!  俺は今にも飛び上がりそうな勢いで、彼女の隣に座る。ああ、なんか今、フローラルな香りがした。くらくらするぜ! 「じゃ、じゃあ、失礼をば……」  そっと、彼女の髪に触れる。それは、絹のように柔らかでありながら、芯のある張りを感じさせる。  なんだこれは、最高かよ!  髪は女の命と言われるのも納得だ。これは、彼女を蹂躙している気がして、支配欲を満たして、愛おしい。  そのまま、手を彼女の肩に乗せる。華奢な身体だと思った。その身体が火照っている。  くすぐったそうに肩をすくめる彼女の瞳が揺れる。いいんだろうか? このまま、キスしても、いいんだろうか?  つい、彼女の唇に目を奪われる。  据え膳食わぬは男の恥という言葉が過ぎる。いや、それは女子から言い寄られたらの話だろう?  今、そういう状況なのか?  確かに、彼女は俺のベッドで寝ていたし、キャミソールだし、髪触らせてくれたし、俺の『恋人』だし、どう考えても据え膳のはず。  でも、自信がない。今思い出したけど、まだ名前も知らないんだ。俺の名前は知っているみたいだけど、この状況を俺の浮かれた思考で判断していいものなのか?  答えは出ない。  ええい、据え膳だ。男だ。考えるな、感じろ!  彼女の肩に置いた手に力が入る。その手の上に、彼女のか弱い手が乗せられる。  俺は顔を近付けた。彼女の麗しき唇をいただくんだ! 「あー、待って」  それは無情にも、彼女の唇から発せられた。  俺は固まる。  優しく肩から手をどかされて、希望が揺らいでいく。 「そういうのは、もっと付き合ってからじゃないと」 「そう……だよね。ごめん」 「うん。今日は帰るね」  彼女はベッドから立ち上がり、そそくさと部屋から出て行った。  俺は彼女の背中に手を伸ばしたが、それだけだった。  ああ、なんてことだ……。  俺は脱力して、ベッドに仰向けになる。 「『恋人』と付き合うって、難しいんだな。それにしても……」  妙に変なところがあるんだな。  あれは、あのままでいいのだろうか?  もしかして、女子は気にしないのか?  気になり過ぎて、引き止めるべきだったかもしれない。 「キャミソールのまま、外に出るのは、痴女では?」  思うに、俺の『恋人』は変だった。
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