是非は引っ越してみなけらば分からない。

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「ただいまぁ! 遅くなっちゃってゴメン!! 恭一さん」  今度は明らかな偽物だ。  妻が深夜に非常識にインターホンを鳴らすことは有り得ないし、彼女が俺を『恭一さん』と呼んだことは一度もない。  何より彼女は、もうこの世にはいないのだ。 「何してるの? 早く開けてちょうだい。恭一さん」  見れば、輪郭がボヤけてはっきりと見えない真っ白い顔が磨りガラスに貼り付いていた。   「ご飯、ちゃんと食べた? 食べたの? ねえねえ、恭一さん、ご飯はちゃんと食べたのかしら? 答えてちょおだいよぉ、ねえ、恭一さぁん」  恐怖を感じながらも視線を下へと移していくとやっぱりだ。  しっかりと尻尾が見て取れた。今度のはもう一つ未熟なやつだ。 「ねえ、食べたの? 食べたのったら、ばばあ汁」  『ばばあ汁』って言っちゃった。  彼らは既に目的を見失っている。  なら何でこんなにしつこいのか。暇なのか。  家賃が月に二万円の戸建ての古民家。  道理で安いはずだ。狸に化かされるのを告知する義務は不動産屋にはない。  こんな家に長く住んでいたら、それこそ頭がおかしくなってしまう。  やっぱり俺には田舎は性に合わない。  オーナーには悪いがコンビニなら他にいくらでもある。  明日になったら、不動産屋に文句を言ってやる。    ─そして  心機一転。  都会に引っ越そう。 【 是非は引っ越してみなければ分からない ─ 完 ─ 】
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