1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
食事の用意を済ませ、向かいに座って嬉しそうに俺を眺める妻。
「ふわぁ、私、何だか眠くなっちゃった」
「もう遅いからね、先に寝てくれて構わないよ」
いつも、遅くなる時は連絡をして、先に休むように伝えていたから、帰れば寝顔しか見ることがなかった。
「そうね。じゃぁ、そうさせてもらうわね。明日は何時? 」
「昼からだから11時頃かな」
言った傍から、向かいに座っていた妻の姿が見えなくなった。
やっぱりかと落胆して頭を垂れると、ふと視界の端に妻の姿が入った。
ギョッとして、顔ごとそちらを向いて凝視する。
妻は、勝手場の床にそのまま横になって寝ているのだ。
「ちょっと! 何してるの?! だめだよ! ちゃんと布団で寝ないと」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。久方ぶりに愛する人の肌のぬくもりを感じた。
「あら嫌だ、私、今日なんか変ねぇ」
そう言った妻の口からは、とてつもない異臭がした。
臭い。とにかく臭い。口からだけではない、妻の全身から獣の臭いがする。
分かっていたことだったのに、もしかしたらと有り得ない妄想から抱いた僅かな希望は、この瞬間に脆くも崩れ去った。
「お前、一体誰だ? 」
妻は、妻の形をしたそれは、俺の胸からスッと離れて立ち上がると、舌をベロっと出してケタケタと笑いながら勝手場を走り回る。
家の中に知らない誰かがいるという、その違和感と恐怖は計り知れない。
最初のコメントを投稿しよう!