是非は引っ越してみなけらば分からない。

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 食事の用意を済ませ、向かいに座って嬉しそうに俺を眺める妻。 「ふわぁ、私、何だか眠くなっちゃった」 「もう遅いからね、先に寝てくれて構わないよ」  いつも、遅くなる時は連絡をして、先に休むように伝えていたから、帰れば寝顔しか見ることがなかった。 「そうね。じゃぁ、そうさせてもらうわね。明日は何時? 」 「昼からだから11時頃かな」  言った傍から、向かいに座っていた妻の姿が見えなくなった。  やっぱりかと落胆して頭を垂れると、ふと視界の端に妻の姿が入った。  ギョッとして、顔ごとそちらを向いて凝視する。  妻は、勝手場の床にそのまま横になって寝ているのだ。 「ちょっと! 何してるの?! だめだよ! ちゃんと布団で寝ないと」  慌てて駆け寄り、抱き起こす。久方ぶりに愛する人の肌のぬくもりを感じた。 「あら()だ、私、今日なんか変ねぇ」  そう言った妻の口からは、とてつもない異臭がした。  (くさ)い。とにかく(くさ)い。口からだけではない、妻の全身から(けもの)(にお)いがする。  分かっていたことだったのに、もしかしたらと有り得ない妄想から抱いた僅かな希望は、この瞬間に脆くも崩れ去った。 「お前、一体誰だ? 」  妻は、妻の形をしたそれは、俺の胸からスッと離れて立ち上がると、舌をベロっと出してケタケタと笑いながら勝手場を走り回る。  家の中に知らない誰かがいるという、その違和感と恐怖は計り知れない。
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