是非は引っ越してみなけらば分からない。

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 恐怖に身を強張らせながらも、では、この女は誰であるのかと思案する。答えは出ない。  女は時折、走るのを止めたかと思うと、急にしおらしく 「お腹いっぱいになった? もう少し何か作ろうか? 」 と聞く。  一瞬、また錯覚に陥り気を許しかけたが、その途端に女はまたケタケタと笑いながら走り出す。  目的はよく分からないが、こいつはこうやって私や、私と妻の思い出を弄んでいるのだ。  ── どれだけの時間が流れただろうか  あれから、こいつはずっと走って、そして同じ事を繰り返しているだけだ。  それ以外は何をするのでもない。始めは恐ろしく感じていたが、今では少し苛だちを覚えさえする。  怖がらせるのか、弄ぶのか、怪異にしても工夫がなさすぎる。 「目的は、目的は何なんだ? 」  走り回っていたものが、急に動きを止め、『え? 』という表情でこちらを見つめる。 「だから、目的は? 目的は何なのかと聞いている」  さっきまで怖いと感じていたそいつが、俄に困ったような表情で頭を掻き始めたのを見て、恐怖心は幾分か和らぎはしたが、それでも、気持ち悪いに変わりはない。  走るのを止めたそいつは、今度は無理にテンションを上げるように大きな声で騒ぎ立てる。 「やーい!! じじい、ばばあ汁食った!! じじい、ばばあ汁食った!! 」  ─ は? ─ と思った。いや、マジで思った。  他の文言を用意していなかったのか、目の前のこいつは、壊れたテープレコーダーみたいに、ただただ同じ言葉を繰り返すばかりだ。 「やーい!! じじい、ばばあ汁食った!! じじい、ばばあ汁食った!! 」
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