是非は引っ越してみなけらば分からない。

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 狸は、納得がいかないというよりは、まだ俺のことを馬鹿にしたような顔で気の毒そうに言う。 「昼にね、僕がアンタに化けて奥さんとここで会って、奥さんを騙くらかして、ちゃぁんと、ばばあ汁にしたの。それは間違いのない事実なの。  そんな言い訳が通用するはずないでしょ? 第一、ならさっきあんたが食べたお肉は、何の肉だっていうのさ? 」  さて、それは俺にも分からない。  妻は確かに死んでいて、この世の人ではない。  だから、俺に妻を食べることは出来るはずがない。  だけど、それなら、さっき美味しく頂いた夕飯の肉は一体全体、誰のものだというのか。 「お前、いつからここにいる」 「あんたが仕事に行ってからずっといるよ? 」  俺が仕事に出かけたのは正午頃だ。 「その間に誰か来なかったか? 」 「だから、奥さんが帰ってきた」  俺が留守の間に、俺の家を死んだ妻が訪ねてきたというのか? しかも、十年前に死んだ妻が、つい先日引っ越してきたばかりのこの家に。  ─ そういえば ─ 「玄関にこんなものが落ちてたけど」  ただのゴミだと思って、後で捨てようとポケットに入れていたシロツメクサを編んで輪にしたもの。 「え? これ ─ 花ちゃんのだ!! 」 「花ちゃん? 」  聞けば花ちゃんは、先日からこの家に新しい住人が越してきたのに興味を持っていたらしく、俺の留守中にこっそり上がり込んでご丁寧に下見までしていたらしい。  ディテールに拘るタイプの狸なのか、リサーチが堂に入っている。  恐らくはその時に仏壇の妻の遺影でも見つけて、いずれ妻に化けて俺を脅かそうと思っていたに違いない。
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