是非は引っ越してみなけらば分からない。

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「と、言うわけで、俺が食べたのは『ばばあ汁』ではなくて、ただの『たぬき汁』だったって事になるな」  狸が奥さんの骨を埋めたと言う場所を試しに掘ってみると、出てきたのは案の定、狸の骨だった。  狸が『たぬき汁』を食った。 「な、何て事だ … 僕は、僕は何て事をしてしまったんだ … 」  俺に違和感なく食べさせるためには、それなりによくできた夕飯である必要がある。  こいつはその為に、入念な味見を繰り返し、完璧な家庭の味を再現しようとしたそうだ。  そして、味見だけに留まらず、俺の帰りを待つ間に空腹に負け、ばばあ汁をがっつりと食べてしまった。 「花ちゃんを … 花ちゃんを食べちゃった … 」  フラフラと土間へ出て、引き戸を開けて出ていく狸の後ろ姿を見て、気の毒に思わないこともなかったが、自業自得だ。  寧ろ、深夜にこんな事に付き合わされた自分のほうが気の毒という見方もできる。  空になった食器をかたして、ようやく落ち着いて風呂に入る。  仕事から帰って、風呂上がりにいただく一杯は格別だ。  時計を見ると三時を回ったところだった。  ふいに、この時間に似つかわしくない音が家の中に鳴り響く。  ギョッとして玄関の方を見つめて固まる。  深夜三時の訪問者。誰かが、インターホンを押した。  引き戸のガラスには人影がはっきりと写っている。  普段ならただただ恐れおののいて、じっと黙ってやり過ごしたかもしれないが、今夜はあんな事があったばかりだ。  もしかしたら、さっきの狸が何かの用事を思い出した戻ってきたのかも知れない。  なるべく外から目立たないように、そろそろと玄関の方へ向かい、暫しの間外の様子を伺ってから 「はい、どなたですか? 」 と声をかけた。
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