1.果樹園での出会い

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 大人たちは、困り顔になり、こそこそと話し合いを始めた。  だれも見ていないと思えば、いくら良家の従僕たちでも、桃を勝手にとってしまうかもしれない。ただでさえ、収穫が減って困っているというのに――。  沐陽(ムーハン)は、背中の籠を背負い直すと、わざとガサガサと音を立てて立ち上がった。  大人たちは話をやめ、同時に彼に目を向けた。 「な、何ものだ!」  剣の(つか)に手を掛け、護衛役と思われる若い男が、女の子を隠すように前に出た。沐陽は、服についた枯れ草を払いながら、わざとおっとりとした口調で答えた。 「おれは、この果樹園の持ち主である暁東(シャオドン)の孫の沐陽です。桃が欲しかったら、爺ちゃんのところへ行って、きちんと値段の交渉をして買い取ってください!」 「な、なにを言う! こ、こちらのお方をどなたと心得る、このお方こそ――」 「それ以上言ってはなりません、宇軒(ユーシェン)!」  大人たちの中で、最も年嵩(としかさ)に見える女が、護衛役を黙らせた。  そして、沐陽に笑顔を向けて交渉役を引き継いだ。 「われらは、急いでいるのです。できれば、今すぐ桃を手に入れたい。そなたの言い値で買い取りますゆえ、値を申してみなさい。桃は一ついくらですか?」 「一つじゃダメ、三つ、いえ四つよ!」  女の子が、大きな声で横槍を入れた。  女は、女の子を一瞬睨んだが、すぐに言い直した。 「あらためて申します。桃は四つで、いくらになりますか?」  沐陽は、大人たちに平然と命令を下す女の子を面白そうに見つめていた。  桃を食べさせてやりたいなと思ったが、彼には桃の値を決める資格はなかった。 「おれが、勝手に桃の値を決めることはできません。そんなことをしたら、爺ちゃんに叱られます。でも、背中の籠の傷ついた桃なら、おれに任されているものだから大丈夫です。村の市場に出している値で売りますよ。風に落とされて皮に傷がついていますが、味は変わりません」  大人たちは、また相談を始めた。  傷ついた桃だが、味は悪くない。五個で銅貨一枚が村の市場の相場だが、どう見ても銅貨など持っていなさそうな連中だった。  銀貨や金貨を出されても、沐陽には手持ちがない。つりは渡せない。
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