ルミ

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「皆さいこー!ありがとー!」 ルミが右手を高く掲げ、そして空を殴るように強く振り下ろすと同時にカイトのギターとアオイのベース、ミクのドラムが揃って曲の終わりを知らせる。 「ストラビー!愛してるー!」今までバンドにかき消されていた観客の声が狭いライブハウスの中に充満する。三ヶ月に一度感じられるこの空気を、ストームラビットのメンバーも観客もめいいっぱい感じとり、深呼吸していた。 「え?何……」 「だから、死んじゃったって、ルミ」 あの熱のこもったライブハウスから二日たった夜、アオイはミクの言葉の意味を何度も聞き返していた。その日、同じ大学に通っているミクとルミは講義を終えて遅い昼飯を食べるために街に出た。有名な大きな交差点、車より人が多いのではないかと思われるほどだ。ここでどうやって人が轢かれて死ぬのだろう?アオイはそんなことを考えていたし、後から合流したカイトはルミが嘘をついているのだろうと思った。 「ルミだけじゃないよ、六人も轢かれたの、死んじゃったのはルミだけだけど……」顔をあげたミクの目は赤く充血しひどく腫れている、涙どころか全身の液体が枯れてしまったように彼女の唇はひどくがさついて見えた。アオイは両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。 カイトは難しい顔で煙草を吸い、二本目を消すと長く息を吐いた。「ルミの葬式、行くぞ」 「!……行くったって、」ミクの言葉の続きを読むようにカイトは強い表情で頷いてみせる。 「俺と、アオイでルミの家に行く」「え!?」思わずアオイが声をあげる。 「ミクは…お前…見たんだろ、つまり、ルミの」そこまで言って黙るカイトにミクは小さく頷く。 「少し休めよ、とりあえず俺とアオイでおばさんところ行ってみる、な、アオイ」カイトのはっきりとした声にアオイは長い前髪で目元を隠しながら小さく「わかった」と言った。 「こんにちは、ルミさんとバンドを組んでいたものです。」 次の日アオイとカイトはルミの自宅を訪ねていた。一度目のチャイムで「はい」と返事があったものの、相手がアオイとカイトだと分かった途端静かになってしまった。「おばさん、俺たちのこと嫌ってたもんね…」いくらか無言を見つめていたが、アオイが諦めたようにそう言った。カイトは強く唇を噛んでいた。 ルミの家は母ムツミとルミ、二人だけの家族だった。高校生の頃このバンドを組むと決めた時、ムツミは猛反対した。理由にはっきりした物はなかったが、穏やかで派手ではないルミに比べ、金髪坊主のカイト、目が隠れるほどの長い髪に耳は穴だらけのアオイ、アニメのような黒目に大量のまつ毛がはえたミクだ。大事に女手一つで育てた娘が怪物に捕まったとでも思ったのかもしれない。事実、ストームラビットを結成して一ヶ月経過した頃、ルミのショートヘアは赤く染まっていた。 「俺たち、帰ります。おばさん、本当に……」カイトは言葉をきった。「また来ます」カイトのその言葉を合図にアオイも家に背を向けて歩き出そうとした時、玄関の戸があいた。 「葬儀」久しぶりに聞いたムツミの声はかれていた。 「葬儀、船橋の、昔ルミが働いてたカフェの近くにある」「あ、はい、分かります」アオイはできるだけ姿勢をただして強く頷く。 「明後日十時からだから」カイトが深く頭を下げたのを見て、同じようにアオイも頭を下げる。 「ごめんなさい、じゃあ」そういうとムツミはばたりと戸を閉めた。 「明後日かー」カイトが頭の後ろで手を組んで歩く。 「本当にルミ死んだのかな」「死んだんだろ」アオイの問いにカイトは素っ気なく応えたが、アオイは怒らない。「七年一緒に居たやつが、突然死にやがって、意味わかんねー」カイトの言葉は独り言に終わり、二人の影は長く伸びてゆく。 「あれ…」アオイの声にカイトが振り返る。「なに」 「あれ、ルミ…ルミだ」「はぁ?はぁ…あ?ルミ」 大きな道路を挟んだ反対側の歩道をルミが歩いている。 「ルミ、ルミ!おい!ルミ!」カイトが大声で叫ぶとルミがこちらに気がついた様子で立ち止まり、ぐっと顔を前に出した。目を細めているのだろうか、キャップで表情がよく見えない。 「なんだ、ミクのやつ、なんか、勘違いしてたのかよ」「そう、みたい、だね」歩道橋まで走り始めたカイトをアオイがふらふらとついていく。歩道橋をおりて二人で駆け寄る中、ルミは一歩も動かなかった。 「おい、ルミ、お前、…え?」カイトの様子に息の切れたアオイが顔を上げてルミの顔を見るなり、驚いたような顔をした。「誰……」 「いやそっちが誰だよ。」強い口調でこたえたルミは、二人の知ったルミではなかった。 「何、ルミのファン?」カイトがそう聞くのも無理は無いほど彼女はルミに何もかもが似ている。背丈、赤いショートヘア、そして服のセンス。ただ顔が、顔というより表情が、そして態度があまりにも違った。 「ファンっていうか、ルミだし。」 「え?」「ん?」「だからルミだけど。」 「ストームラビットって知ってる?」「知らない」 「なのにお前、その見た目で名前がルミなのかよ」 「何さっきから、そうだよ。」さすがに怒ったようにルミが言って、慌ててアオイがフォローする。 「いや、すみません、ちょっと…友人に似てて…名前も同じでびっくりしたんです。」 「へー、そうなんだ。」ぶっきらぼうに応えるルミを信じられないというような顔でみていたカイトが突然笑い始めた。「すげーな、こんなことあるかよ、ルミ、お前今暇?飯行こうぜ。」「え、カイト?」アオイがうろたえる中、ルミは手に持ったコンビニ弁当を二人に見せるように掲げた。「これより高いもん食わしてくれんなら行く」 「へー、色々大変だったんだ」ルミは手元のハンバーグを適当にフォークできりながら片腕をテーブルにつき、カイトとアオイを見ていた。「つーかお前食い方ひでぇな」カイトの言葉を無視してルミは米をかきこんだ。「ルミ…さんって何されてる人なんですか?」「ん?えっと、」「あ、俺、アオイです。」「そうだ、アオイくん。アタシ何してるように見える?」 「ええ…」質問に質問で返され答えられないでいるとカイトが口を挟んだ。 「お前歌上手い?」「カイト」アオイの声に焦りのような怒りのようなものが見える。「なんだよ、あ、飲み物とってくる」「アタシコーラ」「おう」カイトが二つのグラスを持つとドリンクバーに立つ。 「死んだお友達の変わりにしたいのかね」どうでもいいというようにルミはハンバーグを口に放り込む。 「ごめんなさい、カイトはルミが…あの、亡くなったルミのことが好きだったんです、あ、多分ですけど」「ふぇー」 「お前コーラしか飲まねーのかよ」席に戻ったカイトがルミの前にコーラ置くと、すぐさまルミは喉を鳴らしてコーラを飲み干した。「うまい!」 「何お前貧乏なの?」カイトの問いに答えることなくルミは残りの米をかき込むとメニューを開き、真剣にデザートを選んでいる。「変なやつだな」どこか楽しそうなカイトをアオイは不安げに見つめていた。 「いや、ごちそーさんね!」店を出てルミは笑顔で二人に手を合わせてみせた。「で、あの話は?」「カイトぉ」カイトの腕を揺らしてアオイは必死だ。 「やだよ、ていうかダメでしょ、アオイくんの言う通りだね」「なんだよ、お前さえつかまえりゃストームラビットは死なねーのに」「カイト!」ついに怒ったような声でアオイが叫び、カイトは黙った。 「ああ、まぁじゃあ今日のお礼で、これ」 「ん?」ルミが二人に渡して見せたのは風俗店の紙だった。「アタシここで働いてんの、安くしてあげるよぉ、サービスもするし、あ、アタシの番号かいてあるから」そういうとルミは振り向いて手をあげた。「んじゃ「あ」アオイのむく方向に、ムツミがいた。 夕飯だろうか、エコバッグを片手にもったムツミは三人を睨みつけている。 「何、あのおばさん、こっち来る…」ルミが言い終える前にムツミは三人の前に立つと、わなわなと震えだし、最終的に叫んだ。 「この子は!ル、ルミのファン?そーやって!あなた達は!ルミの見た目をしていれば誰でもいいのね!?この子もこの子よ、同じ格好して、ルミにでもなったつもり!?やっぱりあなた達は……!」 「ち、違います!ちが……」アオイはそう言いながらチラとカイトを見たが、カイトは俯き何も言わない、そっくりさんをつくりあげた訳では無いが、第二のルミを見つけて盛り上がっていたのは間違いない。 「いや誰だよ」 少しの沈黙を破ったのはルミだった。「あ、ルミのお母さ「そりゃなんとなく分かるわ」アオイの言葉を遮り、ルミは大きくため息を吐いた。 「死んだルミなんて知らねーよ、バンドも、母親との関係も、さっきからお前らめんどくせぇな」 「てめぇ」俯いていたカイトが顔を上げて凄む。「カイトくん、アタシで寂しさを紛らわそーとしてたじゃん」ルミはぶらりとたれていた両手をポケットにいれる。「おばはん、悲しいね、娘死んでさ、でもアタシあんたの娘知らねーんだわ、ただのそっくりさんらしいよ。まぁどんくらい似てんのか本人見たこともねーから知らんけど」ルミは皆が何も返さないことを確認するとぽり、と頭をかいた。「とにかくアタシ邪魔そーだな」 「あ、まて」「ばーいびー」ルミは信号のない車道を素早く渡ると、振り返って三人に手を振り街に消えた。 「どういう……」その姿を呆然とみていたムツミが二人に向き合う。「さっきの子、偶然見かけて…ルミにそっくりで声をかけたら、名前もルミだって言うんで…つい、いやだからなんだって話なんですけど」「俺が誘いました」カイトは頭を下げた。「俺が飯でも行こうって声掛けました、バンドも話もルミの話も勝手にしました」頭を下げたまま話すカイトをムツミは呆然と見ていたが、ふと振り返ってルミが消えた道を見た。「そう…ごめんなさい。でも、本当にそっくりだったね……」「おばさん……」アオイが呟く。誰一人として、死んだルミの悲しみを癒せていなかった。 後日行われた葬儀は小さなものだったが、ルミの遺骨は残された人間に容赦なくルミの死を刻み込んだ。「その人、そんなに似てたの?」「もーいいだろ」「だって…おばさんまで言ってたじゃん…」 ミクはカイトの袖を掴んでいた。「見た目が似てたってだけだよ、全然ちげーよ」「そうだね、話し方とか、なんていうかなぁ、凶暴なルミって感じかなぁ」アオイが思い出すように空を見る。 「わ、私も会ってみたいな」「やめとけよ」「だって、だって!なんかそんな…奇跡みたいじゃん、亡くなったルミにそっくりな人がいて、名前までルミで、」「やめろよ」カイトが制止するとミクは足を止めて拳を強く握った。 「分かんないけど、全く意味ない出会いなんてないし…別にルミの変わりとかさ、悲しみの穴埋めとかじゃないよ、なんか、でも、なんかさ」 「言いたいことはわかるよ」アオイが優しく諭す。「俺もね、少し、なんていうかな、なんかこう物語が進むような…期待をしたよ。でも、今はルミが死んで、骨になって、なんていうか…ストームラビットは死んだんだ。」 「う、」この日まで一度も泣かなかったカイトが泣き出し、それを合図に二人も声を上げて泣き、肩を寄せあった。 ムツミは冷蔵庫をあけてため息をついた。あの「ルミ」に会ったあの日以来、買い物に行っていない。一週間前に終わったはずの葬儀もまるで昨日のようで。心は疲れ果てているのに腹は不思議と空いてくる、仕方なく街のスーパーまで足を伸ばす、今は外に出るなら騒がしいほうが気がまぎれた。ルミが好きだったビーフシチューをつくろうか、そんなことを考えると目頭があつくなってくる。結局ビーフシチューの材料を買い揃え、とぼとぼと歩き出すと、視界に赤いショートヘアが揺れた。 「ルミ!」思わず呼び止め、顔を見て言い直す「ル、ルミちゃん、また、偶然…」分かっていてもなんだか泣けてくる。顔は違うのだがなんというかたたづまいがよく似ているのだ。 「ルミのかーちゃん」そう言ってこちらを見たルミが、ムツミの言葉を待つために立ち止まったのだと気がついてムツミは焦って口を開いた。「この間は勘違いしていてごめんなさい…あの子たちから聞きました」「いやいーっす。アタシもめちゃくちゃ口悪かった…すみません」意外な台詞になんだか目の前のルミが可愛く見える。 「フフ、やっぱり、ルミじゃないね」「いやルミだって」「あ、そっか」 じゃ、と立ち去ろうとするルミの腕を思わず掴んでいた。「あ、えっと、ビーフシチュー、食べる?」 「なんか皆アタシに飯くれるな」出来たてのビーフシチューの二杯目を平らげながらルミは不思議そうに言った。「なんだろ、ルミちゃんが純粋そうだからかな」「風俗嬢に純も粋もないだろ」「そっか…」ムツミ自身も不思議な気持ちだった。この不良のようで少年のようで動物的なルミは、亡くなったルミとは絶対的に違っていた、が、どこか可愛げがあった。 「にしても、皆好きだね、ルミ」「え?」ムツミが目を細める「あの二人もさ、ルミの話、すんげー愛おしそうにすんの、あんたと一緒」「そうなんだ」きちんと彼らと向き合ったことがないムツミには知らない話だった。「あと、ミクちゃん、店に来たんだ」「…え?」「二人に内緒でさ、アタシがカイトに渡したチラシこっそりみて来たんだよ、わざわざそっくりさん見にさ。一時間半、泣きながらルミの思い出話して、でも最後は笑ってた、ルミは最高の友達だって」ビーフシチューの皿が空になり、並べられた葡萄にてを伸ばすルミを見ながら、ムツミはこっそり鼻をかんだ。「そっか…」 「あと、これはあんたと違うけどさ」「え?」 「ストームラビットが、あの子ら大好きだったんだね」その言葉にムツミは黙り込んだ。もうほとんど認めていたが、そのバンド名を聞くと、十五の時突然母に反抗して髪を赤く染めたルミを思い出してしまう。「皆の…居場所だったってよ」 「そう、私ね、曲を聴いたことないから…」「あ?まぁアタシもないけど。ミュージックアプリとかにあんの?」「ないんじゃないかな、趣味でどうにかやってるようなものらしいし」「ああ、そういうね」 「あの子が…歌ってるのって聴いたこと…」 ムツミが何かを言いかけた時家のチャイムがなった。 「なんでお前がいんだ…」訪ねてきたのはカイトアオイミクだった。「色々あってね、ね、ルミのかーちゃん」肘を着いてふんぞり返るルミを見てなんだかアオイが小さく笑った。「おばさん…あの、余計なお誘いなんですが、三ヶ月後、ストームラビットの最後のライブをするんです。ルミの声は音源で。ファンと決まったことなんですが…良かったら……」ムツミは複雑な表情でイエスともノーともとれない反応を返した。 「来たらいーね、かーちゃん」「お前本当なんでいたんだよ」「説明がめんどい」「ていうかなんでルミさんミクのこと知ってるの?」「アオイには関係ねーよ、ねーミクちゃん」「そ、そうそう!」 四人は暗くなった住宅街を避けるように、河川敷を歩いていた。 「つか、お前、ライブこいよ」「なんでやねん」「ここまできたらなんかの縁だろ、来い」「はぁ?」カイトとルミの言い合いが何度か続いた時、近くの川にぼちゃりと嫌な音がした。「え、何?」アオイが聞くより早くミクが川に近づいて三人に向かって声を上げた。「ね、猫!ねこちゃんかも!」「はぁ!?」カイトが続いて川まで降りると、ルミとアオイも続く。 「どうしよ!」「迷ってたら死ぬだろ!」死ぬ、避けたいものだった。カイトがTシャツを脱ぎ捨てると暗い川に飛び込み、それをみたアオイが「待って!」とカイトを追ってはいる。「ええ、ど、どうしよルミちゃん!アオイ泳げないよぉ」もう泣いているミクの言葉にルミがげんなりとする「はぁぁあ?」そう言いながらルミも川に入りアオイをつかむ、アオイがカイトにしがみつくような形になり、カイトが猫を抱き上げた。「うあー!こいつ暴れる!とりあえず戻れねーからルミ引っ張れ!足元が見えねぇ!」「ミクちゃん手だけ貸してくれぇー」ミクもヒールを脱いでルミの手を掴み、なんとか全員が地面に戻る。 「わ!」おぼれていた猫はなんともなかったのか、ものすごい勢いでカイトの腕から逃れると闇に消えてしまった。「助けたのに……」「ぶっ、」「あは」ずぶ濡れで残された自分たちがどうも滑稽で四人で声を出して笑う。そして突然、ルミが立ち上がった。 忘れられないよ 忘れたくないだろ 花火が見たかったんだよ あの日の花火じゃなきゃ嫌だったんだよ 泣いてやるぞ 男だからってとめんなよ 泣いてやるぞ でけー声で泣いてやるぞ 三人は目を丸くしてルミを見た。 「アタシ、歌、うまいんだ」それは少し前に流行った曲のフレーズだったが、元々ルミの歌だったかのように、少しハスキーな彼女の声は軽やかだった。 「すご、満員じゃーん」「まーとりあえずそこで見てろよ、そして聞いとけよ、ストームラビットの曲をよ」「はいはいよー」 小さなライブハウスは満員だ。カイトの合図で三人が位置について演奏する。真ん中のマイクには誰もいない。ファンは今はいないルミの声をよく聞こうと、焼き付けようと祈るように食い入っている。泣く者、笑顔で聞いてる者、ファン同士肩を組む者。ルミは、それを袖から見て、聞いていた、優しく、柔らかい今は亡きルミの声を。入口や、ステージの上にはファンからの花束でいっぱいだった。 「ルミの歌声は、これが最後です」カイトが静かに言うとすすり泣く声が聞こえる。 「でな、皆、受け入れられないかもしれないけど、一曲、聞いてほしい」カイトが振り向いて目でルミを呼ぶ。マイクを握るルミの姿にファンがどよめく。 こんちわ こんばんは あー おはよう 嫌だよな ルミ あんた誰よと思ってる? いや ルミはさ そんな奴じゃないみたい ルミはさ ・・・ 優しいわたあめみたいにさ 溶けちまってさ 知らない不良に手を貸したりさ 根暗な男に笑いかけたりさ いじめられっ子を庇ったりさ あんたの身体はビーフシチューでできてる? あんたのかーちゃん飯うまいね 最高だね 嫌だよな ルミ あんた誰よと思ってる? いや ルミはさ そんな奴じゃないみたい お前らどいつもこいつもルミが好きだね 羨ましいぜ ルミ 妬ましいぜ ルミ アタシもさ・・・ あんたに会いたかったよ きっとあんたは アタシのことだって 抱きしめてくれただろうさ 怪訝な顔をしていたファンが泣き始める。一番後ろでムツミが目を赤くして笑っていた。 「アタシ親がいないんだ」「アタシもルミみたいに人に愛される人間になれっかな」少し前にルミがそんなことを言い始めた。 ルミはさ・・・ 死んじまったくせにさ・・・ アタシのことさえ 見捨てないんだ 優しいわたあめみたいにさ 溶けちまってさ あんたの体温 ここで感じたよ ありがとう ルミ ファンが泣きながら拍手をする。歌いながらルミも泣いていた。そこは彼女の新しいステージだった。
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