第一話 赤ちゃんむにむに師法成立の巻

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第一話 赤ちゃんむにむに師法成立の巻

「退屈だ……」  私は齢七十五にして、生きることに飽いていた。  子供たちは立派に独り立ちし、いつも笑顔だった妻はもういない。  だからといって孤独というわけでもなく、今までいくつもの事業を手掛けた中で培った人脈から、そこそこの人付き合いもあった。  家はある。世間から見れば間違いなく豪邸だろう。  遊戯施設専用の部屋も、ミニシアターのような部屋もある。  だが、退屈なのだ。  何もかもがありきたりで、つまらくなってしまった。  生きようとする気力を失ってしまったのだ。  かつてあれほど世のため人のためと事業を起こした情熱は、あのエネルギーはどこへ行ってしまったというのか。 『今年も赤ちゃんの出生数が過去最低を更新しました』  ネットニュースにいつもの見出しが踊るのを見たとき、私は俄かに閃いた。  私に足りないのはこれだと、天の声がした。  この大金(おおがね)持男(もちお)が死ぬまでに実現してみせると決意した。  *  *  *
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