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第二話 赤ちゃん解放戦線の巻
「退屈だ……」
私は齢三十八にして、人生に絶望していた。
錆びた大型換気扇が緩慢に空気と太陽光をかき混ぜ、光と影が交互に私を塗りつぶす。
そんな、錆びた鉄の音と匂いにまみれた薄暗い廃倉庫で、くぐもった声が私に届いた。
「リーダー。作戦準備が整いました」
私の名前は靖子。名字は捨てた。
そしてここは、私が束ねる反赤ちゃんむにむに師制度武装組織・赤ちゃん解放戦線のアジトだった。
今から二年前に始まった赤ちゃんむにむに師制度は、マスコミの大袈裟な解説や保健所の指導もあって、瞬く間に全国の母親たちの知るところとなった。
今では赤ちゃんを一人でも多くの赤ちゃんむにむに師に見てもらおうと、ベビーカーを飾り立て、赤ちゃんをディスプレイすることに多くの親が夢中になっている。
実に忌々しいことだ。
見ず知らずの他人に、幸せが詰まった赤ちゃんのむにむにを触らせるなど、実に汚らわしく、実に気持ちが悪い。
成立前から反対してきたが、やはり金で赤ちゃんを売るようになってしまったではないか。
むにむに前の手指の消毒が義務付けられているとはいえ、病気を貰ったらどうするのだ。
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