イアン・ジョー・グゥインという男 再び

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   何度でもしつこく言うが、イアン・ジョー・グゥイン公爵は自身を『世界一幸福な男』だと自負していた。  初恋の相手であるオリヴィアと結婚をする事が出来たからだ。  一日の始まりは彼女を視界に映して始まり、一日の終わりは彼女を見て終わる。一日の全てがオリヴィアを起因としていて、これを幸福と言わなければなんと言うのか。幸せという言葉以外、ぴったりな言葉はないだろう。  ──初恋の相手と結婚出来た。彼女は絹のような銀色の髪に、琥珀色の瞳をしている。均整の取れた手足にほっそりとした腰、楚々とした雰囲気を身に纏っていて、女神のような佇まいだ。そんな女性と同じ空間に居る。同じ空気を吸っている。琥珀色の瞳が俺を映している。俺の金色(こんじき)瞳もまた彼女を映している。俺の名前を呼んでくれる。俺に笑顔を向けてくれている。彼女の香りを毎日嗅げる──……。これを幸せと言わずになんと言うのだろう。幸せ以外の言葉で表す事はできない。  イアンの幸せは全てオリヴィアを起因としている。彼の頭の中は全て妻の事で埋め尽くされていた。  彼は五年前、生まれ育ったスウェミス国と軍事国家ネロペイン帝国と十年続く戦争に終止符を打ったとして英雄と讃えられている。しかし、そんな話イアンにとってどうでも良い話だ。オリヴィアがいかに一日を快適に過ごしてくれるか、そっちの方が重要なのだから。  彼女の幸福の為に、彼女を傷付けたもの全てイアンは排除した。全てを敵に回しても構わない。例え、尊敬する兄が敵になってしまったとしても──その心持でオリヴィアを傷付けた帝国を滅ぼした。十三年前、帝国の荒れ果てた庭にオリヴィアが居たのは、あの庭奥にあった古びた小屋で生活をしていて、歩いて行ける距離だった。あの庭の先に、古びた小屋があるのは認識していたが、まさか人が住んでいるとは思わなかった。隙間風が通るような小屋で、物置かと思っていたくらいだ。何故連れて帰らなかったのだろうと、イアンは今でも後悔の念に苛まれる。あの時、判断を誤らなければ、帝国の皇女達に意地の悪い苛めを受けずに済んだのに。 (辛かった記憶を忘れるくらい、幸せを感じて欲しい)    そんなオリヴィアに欲しいものを訊ねても遠慮して答えてくれなったが……これが、嬉しい事につい最近、要望を伝えてくれた。  
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