貴方の心が欲しい

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「陛下はまだ十五歳だ、若過ぎる。ネロペイン帝国に舐められやしないか?」 「サーレン将軍が阻止する、と仰られたぞ」  と壮年の貴族が言うと「それは安心だ」と皆が声を揃えて言った。   「前王が急死され、十五歳で国王となられた事は嘆かわしいな。我々が支えてやらねば」  とある貴族が言えば、うんうん、そうだな、と賛同する中で一人の貴族が声を上げた。 「しかし、新国王は大人し過ぎないか? 見た目からして優男だ。そんな男が大国を引っ張って行けると思うか?」  自国の王を非難した男を非難する声が上がったが中にはそれに賛同する声が上がった。「その通りだ」「儂も思っていた」そんな声がちらほら上がった。 「そこで、俺は第二王子を推薦したい」 「まだ十歳だし、平民の血だ」 「いやいや、十歳でも王となる素質を持ってらっしゃるぞ。半分は王族の血だ。金色の瞳がその証拠だ。それに陛下と違って血の気が多い」   「子供にしては眼つきが悪い」と非難の声が飛び「その通りだ」と馬鹿にした声が響いた。 「今まで虐げられた恨みを晴らす為に国家転覆を謀り、腹違いの兄の首を獲り国王になる、なんぞ良くある話じゃないか」  男が酒瓶を持って立ち上がった。   「突然王宮に連れて来られ厳しくされ、しかもあやつの母親は使用人にとことん虐められ心を病んだ、恨んでいるに決まっている。それに優しさに飢えている筈だ。ちょっとでも優しくしてやれば、イチコロだ」   「陛下は帝王学を学ばれていらっしゃるから、私の思惑に気付いてしまわれそうだが、弟の方はどうだ! 騎士に混じって彼らに武術を習ってばかりで勉強などしておらんと聞く。この私が傍で支えてやらなきゃな!」 「それで、お前が国王に成り代わる、って意味か……!」    ガハハハっという耳障りな笑い声──……。    ただの酒の席のツマミになる話としては、不躾な内容だった。これを()()()()柱の影で聞いていた十歳のイアンは、自分がそういった政治的な思惑に利用されお家騒動をでっち上げられる恐れがある事をこの時初めて知った。そして国王が王妃以外の女と成した子は、王位継承権の火種になる事をイアンは知った。  このまま、十五歳になって騎士団へ入団し、兄の右腕として王宮に居続ければ何者かの策略に嵌り、兄を失うかもしれない──その策略に嵌ってしまわないような人間になる為には、イアンは王城へ居てはいけないという考えに至って国軍へ入隊した。王城を離れる事で、少しでも国家転覆の火種を減らしたくて。それから、「平民の血」「穢れた血」だと苛められた弟を守ってくれていた兄を守る力を手に入れる為に。  イアンが国軍へ入隊してすぐにした事は、秘密裡で宴の席で国家反逆の話をしていた貴族とその話に乗った男達をとことん調べ上げた。結果横領や売春斡旋という罪状が次々と明るみに出、イアンは全員を投獄、身分を剥奪した。  イアンが裏でした事は誰も知る由なく、ただ騎士団ではなく国軍へ入隊した事で『兄に反旗を翻す危険分子』と呼ばれてしまうのだが、兄と勝手に仲違いされ反逆罪にされるよりましだと思った。  イアンは国軍へ入隊しても、一人前になったらいずれはロイドへ忠誠を誓うつもりだった──が、イアンは出会ってしまった──儚げで美しい初恋の少女に。  オリヴィアの正体を知り、彼女と再会してしまった。  再会した日、窓から漏れる月光に照らされたオリヴィアの姿を目に焼き付けた時、「騎士の誓いはオリヴィアに捧げるべきだ」とイアンは悟った。──『大事な人にとっておくべき』は、オリヴィアこそふさわしい相手だ。 『簡単に破れてしまう約束はするな』とジェシカから言われていたイアンは、オリヴィアとの約束を破るつもりは毛頭なかったし、オリヴィアを守る権力(王族の血)を彼女の為に使うべきだと考えた。権力とスェミス大国の軍事力全てを使ってネロペイン帝国の革命軍を焚きつけて、内部を壊し、それで弱っているところを外部から完膚なきまでに打ちのめした。  全てはオリヴィアの為に。  スェミス大国の犠牲者が皆無だったのは、ただ運が良かっただけだ。  もし、犠牲が多くても俺は後悔しない。  ──オリヴィアを毒する人間がこの世に存在しないのだから。  もし、オリヴィアを傷付けた国がスェミス大国で、ロイドがイアンの道を妨げるとしたら──イアンは躊躇なく兄の心臓に剣を差した。  全てはオリヴィアの幸せの為に。  その為なら、大好きな兄が死体で転がっていても否めない。    それだけの覚悟がイアンにはあった。  自国を裏切ってでも、全てを敵に回してもオリヴィアを傷付けた全てを壊す。  その覚悟でイアンはオリヴィアに騎士の誓いを捧げた。     しかし。
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