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初めてオリヴィアを抱き締めて眠った日は、まさかオリヴィアに「一緒のベッドで寝て」なんて言われるなんて夢にも思ってもいなかった為、イアンは咄嗟に断ったものの……オリヴィアの反応を見て、イアンはその提案を飲んでしまった。イエスマンは発揮された。
しかしだ、好きな女相手にそれはもう普通で居られる訳がない。抱き締めて眠り、手はオリヴィアの腹の上にあるがオリヴィアに嫌われたくなくて、精神力で理性を押さえていた。しかし、下半身が反応していない、なんて言っていない。ばっちり勃起している。
それをイアンはオリヴィアに悟らせない為に、今ではイアンのナイトウエアの上着は丈が長く下半身を覆える長さだ。それからきつめの下着を履いて目立たなくする。それに加え太腿で押さえつける。これを毎晩続けてきた。もうすぐ四年になろうとしているのは、汗と努力の結晶である。
しかし、その努力が音もなく崩れそうだった。
オリヴィアに抱き締められているイアンは身動きしたくてもできない。それにイアンが履いているトラウザーズは自分にあったサイズだ。太腿で挟んで隠そうにも出来なかった。現に今見事にテントを張って、主張している。
(これがバレたら、俺は終わりだ……!)
イアンがとった行動──それはオリヴィアを視界から遮断し刺激から逃げるという行動である。力強く両目を閉じる。熱の原因であるオリヴィアを少しでも遠ざけようと思ったのだ。
しかし、オリヴィアは非情だった。
「誰がそんなこと言ったの……!?」
ぎゅうううううっと力を込められてイアンはやけくそに大声で叫んだ。
「オリヴィアの態度が可笑しかったから、俺と離婚したがっていると思ったんだ!!」
「そんな態度、してないわ!」
オリヴィアは目を丸くして両目を閉じたイアンを見上げた。
「私がいつ、離婚を切り出すの!?」
「い、いつって」
「結婚記念日の朝。俺がジョギングへ行く前」
「えぇ~~?」
イアンはゆっくりと目を開けて、オリヴィアの様子を見る。すると彼女は顎を擦りながら記憶を辿っている様子だ。
そして、イアンは此処に来きてやっと全て自分の勘違いではないか、という疑惑を持った。
短い沈黙後にオリヴィアは「やっぱり、私はそんな態度を取った記憶はないわ」と片眉を上げた。
「今朝、思い詰めた顔で何時に帰るか訊ねてきたじゃないか」
「そんなに思い詰めてたかしら……」
オリヴィアは今朝の自分を思い浮かべたものの、そんな勘違いをさせてしまうような態度を取ったつもりはなかった。オリヴィアはイアンの行動を知ってどのように立ち回ろうかとばかり考えていた為、あの時自分がどのような表情だったなんて考えても分かる筈がない。
「いつもと様子が違ったから気になって……ユング将軍に相談をしたら、離婚したがってるんだ、って言われて……」
「閣下から?」
「どうして閣下はそんな事を?」オリヴィアは可愛い顔を顰めた。
「朝から、オリヴィアが重い雰囲気だっただろ? 俺はオリヴィアに犬を飼わないって言ったから、それで怒らせてしまったんじゃないか、と思って将軍に相談したんだ。そうしたら、将軍は『普通犬を飼わないって言ったくらいで朝から重い雰囲気で訊ねてこない』と言われて……それはもう離婚を切り出そうと思って、何時にイアンが帰って来るか、何時に寝るか気になったんだろ、と言われたんだ」
「イアンが犬を飼わない、って言ったくらいで怒らないわ。それに犬の話は一カ月前の話よ」
本当の所、イアンから「犬を飼わない」と言われ傷ついて泣きはした──が、恨んでなんていない。計画は狂ってしまったけども。
「イアンは閣下からそう言われて信じたのね」
オリヴィアから呆れたように言われ、イアンは情けないように肩を下ろした。
「こんなに身体がデカい男だから、安らげる場所になれず、オリヴィアは俺と離婚をしたがっているんじゃないか、と思ったんだ」と言った。
「それに、食堂で『結婚記念日に言いたい事がある』とか言うから、俺は結婚記念日に死刑宣告をされるとばかり思って」
オリヴィアは眉間に皺を深く刻み唇を尖らせた──。
そんな表情まで可愛いオリヴィアからイアンはそっと視線を逸らし、天井を見上げる。オリヴィアから詰められている立場なのに、下半身のそれがさっきよりも増量を増したようで、申し訳ないし居た堪れない。
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