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「うわー、すごい人だなぁ」
圭太が顔をしかめて呟いた。海水浴場は山崩しの棒が大量に砂浜に突き刺さったように、人でごった返していた。私たちも例に漏れず、その一員だ。
「土曜日だもんね。そりゃ混んでるか」
「そんで……何する?」
「何って……わかんない。海に来れば少しは気が紛れるかも、と思って」
「それじゃあとりあえず、そのへんブラブラしますか」
私と圭太は並んで浜辺を歩いた。
靴の中に砂が入り込んできて不快なので、私たちはスニーカーと靴下を脱いだ。生温い砂を素足で踏むと、小学生のとき以来の感触を思い出した。気持ち良いやらむず痒いやら。
私たちは海に沿って目的も無く進んだ。電車の中で話していたような、くだらないやり取りを続けた。
「そういえばさ……言いたくなかったら別に良いんだけど。圭太のストレスの原因って、一体何なの?」
少し先を行く私は、圭太へ疑問を投げかけた。
振り返ると地面に刻まれた私たちの足跡が、砂の柔らかさと風によって次々と掻き消されていった。
「……俺さ。学校が終わるとすぐ帰るじゃん。光帆に後片付けもお願いしてさ」
「うん。その理由、気になってた」
「それって、要介護のばあちゃんが家にいるからなんだよね。うち母子家庭でさ、母さんが仕事行ってる間は、俺がばあちゃんの面倒見なきゃいけないんだ」
「あ、そういうこと……」私はすぐに自分の強引な提案を呪った。「だから海に来るのも悩んでたんだ。私がむりやり連れ出して……ごめんね」
「いや、むりやりじゃないよ。最終的に行くって決めたのは俺だし……今日は母さんが仕事休みで家にいるから、なんとか抜け出せた。でも夜メシの食材買いに行くって出かけたのに帰って来ないから……実はさっきから鬼電来てるんだよね。平日は仕事で疲れてるから、俺にばあちゃんの世話を早くバトンタッチしたいんだろうな」
「そっか。……じゃあ早く帰らなきゃね」
圭太は急に立ち止まると、服が汚れるのも構わず、その場で大の字に寝転がった。
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