現実逃避行

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「街に遊びに行ってくる」 「友達と?」 「うん。クラスの子と」 「気をつけてね。行ってらっしゃい」  学校が休みの土曜日。私はお母さんに予定を告げ、外出した。  毎週のように家に引きこもっていると親に心配されるので、仕方なく。  七月初めで季節は夏に差し掛かっていた。  Tシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、私は自転車に乗った。  友達と遊びに行くなんて嘘だ。ひとりだ。街に行くのも嘘だ。街中は同じクラスの生徒に遭遇する可能性が高い。  なので私は図書館へ向かうことにした。  お金がかからず、落ち着いて時間を潰せる場所と言ったら、そこしか思いつかなかった。  ペダルを漕いで見慣れたルートを自転車で走っていると、歩道の真ん中に男性が(うずくま)っている姿を発見した。  普段なら見て見ぬフリをして、スルーしてもおかしくないのだけれど、私は自然とブレーキを握っていた。 「大丈夫ですか。どうかしましたか?」返事は無かった。私は自転車から降りてスタンドを下ろすと、男性に近づいた。「具合悪いですか。立てますか?」 「あぁ……大丈夫です」  顔を上げた彼に見覚えがあった。同じ高校。クラスメイト。美化委員…… 「須藤くん」 「あれ、山下さん。……やば、変なとこ見られちゃったな」 「どうしたの。貧血?」 「最近、急に目眩が酷くなることがあるんだよね。でももう大丈夫」  私は須藤くんに手を貸し、彼をゆっくり立ち上がらせた。彼の顔はホラー映画で観た幽霊を想起させるように青白かった。 「病院で検査してもらったら? 変な病気だったら怖いし」 「いや。実は原因はわかってるんだよね。……これストレスのせい」  ストレス? まだ若いのに? しかも須藤くんが? 「何か悩み事でもあるの?」 「んー……これは山下さんに話すべき内容じゃないと思う」 「ふふ。そうだよね。周りからの評判が悪い私になんて、相談しても仕方ないもんね」 「違うよ、そういう意味じゃないって! ……これは家族の問題だし、相談して誰かがどうこうできる話じゃないからさ……」須藤くんは余計なことを口走ったと後悔しているのか、後頭部を手で撫でつけると続けた。「じゃあ俺、買い物して帰らないといけないから。助けてくれてありがとう。またね」
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