現実逃避行

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「やだよ俺! 帰りたくねーよ!! せっかくこんな快晴の日に海に遊びに来てんのに、どうして俺だけ家族の奴隷なんだよ!!」 「圭太……」 「これが俺のストレスの原因。ばあちゃんのことは好きだし、家族のことは大切にするべきだと思うけど……こんなのいつまで続くのかな、と思っちゃってさ。そんで、そんなことを考えちゃう自分のことも嫌いになる」圭太は太陽光を直視しないためなのか、それとも私に表情を見られたくないからなのか腕で目元を隠すと、言った。「しかも俺、近々引っ越すんだ」 「え、嘘でしょ!? ……いつ?」 「夏休み前には」 「え〜〜〜、あと一ヶ月も無いじゃん……引っ越すって市内?」 「いや違う。遠〜〜〜くの町に引っ越す。だから転校もする」  せっかく友達になれたと思ったのに。教室での孤独から解放されたと思ったのに。  胸を押し潰そうとする寂しさの塊が、喉元まで急激に込み上げてきた。 「周りの仲良い友達には話してあるの? てか、早くみんなの前で言った方が良いんじゃない?」 「友達なんてひとりもいないよ。俺、一年のときからみんなの誘いを断って真っ先に家に帰る、ノリの悪い奴だったからさ。先生に引っ越しのことは伝えてあるけど、クラスメイトで話したのは光帆が初めて」 「……どうして引っ越さないといけないの?」 「ばあちゃんの希望だよ。生まれ育った町で余生を過ごしたいんだとさ。母さんもそれに応えてやりたいって」  圭太は家族が決めた、大人が決定した選択に抗えず、その身を委ねるしかないというのに。  私が抱える問題は恋愛が絡んだ、どこまでも浮かれた悩みに過ぎなくて、酷く下品に思えた。
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