旅行

1/4
前へ
/236ページ
次へ

旅行

「すみれ、準備はいい?」 一生の言葉に、すみれは、背負った小さなリュックの持ち手を両手で握りながら、うん!と頷く。 「よーし。じゃあしゅっぱーつ!」 グーにした片手を挙げて玄関を出て行く二人に笑いながら、瑠璃もあとに続く。 今日はいよいよ三人で京都に行く日。 マンションの1階に下りると、ロータリーに停めた車の横で、運転手の白石(しらいし)がにこやかに挨拶してくれる。 「おはようございます!」 「おはよう、白石」 「白石さん、おはようございます。よろしくお願いします」 一生と瑠璃に続き、すみれも両手を揃えて挨拶する。 「おはようございます」 「すみれちゃん、おはようございます。いよいよ京都ですね!新幹線の駅まで車でお送りしますね」 「はい!」 すみれは、楽しみで仕方ないとばかりに、笑顔で返事をする。 「さあ、どうぞ」 白石の開けたドアから車に乗り込むと、すみれはチャイルドシートに座る。 ベルトをしっかり締めて緩みがないか確かめると、白石は反対側のドアを開けて瑠璃に促した。 「足元お気を付けて」 「ありがとう」 腰を下ろした瑠璃は、ふと隣のすみれを見て微笑む。 「すみれ、リュック背負ったままじゃない。下ろしたら?」 「ううん。いいの」 「あら、中に入ってるおやつとぬいぐるみがペチャンコになっちゃうわよ?」 「えっ?たいへん!」 両手で口元を押さえてから、慌ててリュックを下ろそうとするすみれを、瑠璃はふふっと笑って手伝った。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

866人が本棚に入れています
本棚に追加