プロローグ

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プロローグ

 図書館というのは何とも不思議な場所だ。  古今東西のありとあらゆる分野の本がそろっていて、毎日多くの人が訪れ借りていく。書店や古書店などとは違い、それぞれの本を書いた人たちの思いのほか、それらを借りていく人たちの思いもそこには存在しているような気さえする。  例えば、栞ひもの残された場所。それがもし最初の方にあったなら、前に読んだ人はどんな読み方をしたのだろうか。序盤から引き込まれて一気に読み終えたのか、すぐにつまらなくなって本を閉じたのか。  例えば、「今日返ってきた本」の棚。先週返したばかりの本がそこにあったなら、自分の次に借りた人はどんな感想を持ったのか訊いてみたくなる。もし自分と同じような感想を持つ人だったら気が合うだろうし、全く異なる見解を持つ人だったらぜひ意見を訊いてみたいものだ。  例えば、本に残された置き土産。前に借りた人が栞代わりに使っていたポストカードがそのまま挟まっていることがあり、自分もつい使ってしまう。次に借りる人も使うのだろうか。  書き手、読み手、いろいろな人の思いが交錯する図書館。そんな場所だからこそ、時として不思議なことが起こるのかもしれない。  これはそんな図書館が起こした、小さな小さな奇跡の物語だ。
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