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兄さんに救出されてからの僕は、けっこう悲惨だった。
兄さんは、僕の濡れた身体をドライヤーで乾かしてくれたが、温風が熱すぎてやけどするかと思った。結局、一度濡れた身体は乾かしても波打ったままで、元通りにはならなかった。それに、図書館の本を保護する透明のカバーでコーティングされ、厚紙の質感が自慢だった僕の身体は無駄にピカピカになった。その上、僕が突風で飛ばされたと信じている兄さんは、僕を返却カウンターにセロテープで固定した。僕はもう二度と、返却カウンターから自力で動くことはできなくなってしまったのだ。
それでも僕は満足だ。なぜならそばにはいつも兄さんがいるし、僕の大好きな子どもたちもたくさん来てくれるからだ。図書館だから子どもたちは静かにしているが、元気な姿を見るだけで僕は幸せな気持ちになれる。
実くんはあれから割と元気に過ごしているようで、図書館にも定期的に通っている。来るたびに、僕に小さく手を振ってくれる。剛志くんに話しかけることができたのか、僕はすごく気になっていたが、あえて訊かないことにした。実くんならきっとできると信じているし、それに、実くんの口から直接いい報告を聞きたいからだ。
図書館に来る子どもたちが帽子や手袋を身に着ける頃だった。実くんは、僕にしか聞こえない小さな声で「剛志くんは読書が嫌いなんだ」と、少し残念そうにささやいた。「でも、僕の体調のいい時は、ドッジボールの仲間に入れてもらってるんだ。剛志くんはね、いつも僕をかばってくれるんだよ」と、実くんはキラキラした笑顔になって言葉を続けた。実くん、剛志くんとついに友達になったんだね。よかったね。これからも仲良くね。
さらに、驚くべきことに、僕に妹がふたりもできた。遥香ちゃんと可奈ちゃんが作ってくれた布製の「としょかんはるか」と「としょかんかな」。ふたりおそろいのバッグを下げて図書館にやってきて、兄さんに「じろうくんが寂しくないように」と言って渡していた。少し天然なところがある兄さんは、きょとんとした顔で「僕の名前は次郎じゃなくて太郎だよ」と言いながら名札をふたりに見せたが、かわいいふたりを前に終始照れていた。そしてその場で「はるか」と「かな」を僕のそばに飾ってくれた。黄色のリボンをつけた「はるか」と赤いリボンをつけた「かな」。ふたりともにこにこ笑っている。兄さんには悪いが、厚紙でできた僕よりもずっと完成度が高くてかわいい。図書館のアイドルの座は、妹たちに快く譲ろう。
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