第二章 大丈夫の魔法

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第二章 大丈夫の魔法

0  図書館の返却カウンターに置いてあった「としょかんじろう」のマスコットが、いつの間にかなくなっていた。僕が自分で描いたイラストをもとにして、半年ほど前に作ったのを飾っておいたものだ。厚紙とひもで作った簡単なマスコットだが、シンプルさが受けたのか思いのほか子どもたちに人気が出た。でもしばらくすると誰にも見向きされなくなり、作った僕でさえ存在を忘れてしまっていた。一緒に働く司書の(しおり)さんに言われるまで、なくなっていることに全く気づかなかった。  誰か気に入った子が持っていったのかな、などと思っていたら、数日後にひょっこりと戻ってきた。いや、正確には図書館の入り口近くに落ちていたのだが。突風にでも飛ばされたのか、小さな傷がたくさんついていて、降り始めた雨に濡れていた。  もう捨ててしまってもよかったのだが、存在を忘れていたとはいえ作った僕にとっては少なからず愛着もある。しばらく考えた末に、乾かしたり補強したりといった応急処置を施した。返却カウンターにセロテープで固定したので、もう飛ばされたりはしないだろう。でも、こんなところまで風が届くことなんてないはずなのに、おかしいこともある。  修復したマスコットは、何というか、ゆるふわ? ふわとろ? 違うな。そうだ、ぶさかわだ。もともと愛嬌のある顔が描けたと自画自賛していたが、何せ僕は工作が得意ではない。できあがったマスコットはお世辞にもできがいいとはいえなかった。それが修復によってさらに悲惨なことになってしまった気もするが、まあ愛嬌といえば愛嬌。それにしても、最近の若者言葉はわからない。今度、栞さんに教えてもらおう。栞さんはきっとゆるふわ女子だ。ああ、栞さんと一緒にふわとろなオムライスが食べたいなぁ。あれ? もしかして僕、若者言葉を使いこなせてる?  話がそれてしまったが、マスコットのじろうがなくなって見つかったと思ったら、今度は増えた。図書館に通ってくる女の子がふたり、布でマスコットを作ってくれたのだ。ふたりの名前にちなんで「はるか」と「かな」という名前らしい。色違いのリボンをつけた「はるか」と「かな」は、僕の作ったじろうとは比べ物にならないほど完成度が高くてかわいい。でも、どことなくきょうだいのように思えたので、三人一緒に飾ってある。  マスコットが増えてから、図書館に来る子どもたちも心なしか増えたような気がする。それはとてもいいことだ。
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