第二章 大丈夫の魔法

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2  去年実に話しかけられた時、オレは正直面倒くさいと思った。だって実は身体が弱いとかでよく学校を休むし、体育の授業はしょっちゅう見学するしで、丈夫なことが取り柄のオレとは気が合わないと思うからだ。実がたまに体操服に着替えていると思ったら、先生からは「中瀬、しんどかったら途中で休んでもいいからな」なんて、えこひいきされている。オレたちは汗をかいて真面目に走っているというのに。そんなわけで、オレにとっては実なんてただの面倒くさい存在だった。  それに、実のことを面倒くさがっていたのは、オレだけじゃなかった。周りのやつらだって、実がチームに加わると負けるから嫌だと言っている。休み時間にドッジボールをする時も誰も実を誘わないし、実もまさか休み時間にまで外へ出て運動をしたいとは思っていないだろう。別にみんなで仲間外れにしているわけじゃないけど、実はひとりでいることが好きなんだろうと勝手に思っていた。  だから、実から本当はみんなと遊びたいと打ち明けられた時、オレは少なからずショックを受けた。それならそうとはっきり言えばいいのに。オレは割と誰に対してもはっきりと言いたいことを言うタイプだけど、実のように言えないやつもいるんだな。  運動場の遊具とかで遊ぶのはまだいいとしても、ドッジボールに加わりたいと実に言われた時はさすがに面食らった。体育の授業も見学ばかりなのに、ドッジボールなんかして大丈夫なのか? 「実、すぐに熱出すんだろ? ドッジなんかして大丈夫なのかよ」 「どうしても、やってみたいんだ。僕は平気だから、お願い!」  何も、手を合わせてオレを拝まなくても……。まいったな。 「ったく、わかったから……。何かあっても自己責任だからな」  覚えたばかりの難しい言葉を使って警告したつもりだったけど、実は嬉しそうにうなずいている。そんな実の顔を見て、オレはどうしてか苦しいような寂しいような気持になった。  初めて実が加わったドッジボールはオレの方が気疲れしてしまって、柄にも合わずへとへとになった。実はオレが必死に守ったから余裕だったはずなのに、はあはあと息を切らせていた。でも、とても楽しそうにしていた。オレは実の髪をくしゃくしゃになでたあと、背中をさすってあげた。
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