第二章 大丈夫の魔法

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3  四年生も実と同じクラスになって楽しみな反面、オレにはちょっと不安なことがあった。それは、今年八十歳になるばあちゃんのことだ。よそのうちのばあちゃんと比べて年を取っているのは、四十歳で父ちゃんを産んでいるからだ。近所でじいちゃんとふたりで暮らしていたけど、三年前にじいちゃんが亡くなってからはひとりで暮らしている。  ばあちゃんは、今よりずっと小さな頃からオレのことをすごくかわいがってくれていた。何でも、父ちゃんが六人きょうだいの末っ子で、その父ちゃんの子であるオレは、十人いる孫の中でも一番小さくて一番かわいいらしい。オレもそんなばあちゃんが大好きで、近所に住んでいることもあって、時々遊びにいっている。  そのばあちゃんが、最近何だかおかしいのだ。  最初におかしいと気づいたのは、何度も同じ話をした時だった。でも、オレはお年寄りがそういうものだと知っていたし、前からも何度も同じ話を聞かされていた。ばあちゃんの子どもの頃の話とか、じいちゃんと出会った頃の話とか。だからオレはちょっと面倒くさいとは感じながらも、ばあちゃんの話を黙って聞いていた。それが最近は、一日のうちに何度も同じ話をするようになったのだ。さすがのオレでも、一日に何度も同じ話を聞くのはしんどすぎる。  次におかしいと感じたのは、おやつが二回出た時だった。おやつを食べてまだ一時間くらいしか経っていないのに、ばあちゃんはまたおやつを出してきた。「さっき食べたよ」とオレが言っても、ばあちゃんは覚えていないようだった。残念ながら、育ち盛りのオレを喜ばせようとしたわけじゃなさそうだ。  極めつけは、ばあちゃんがひどく料理下手になったことだ。煮物の味つけは濃すぎるし、焼き魚は焦げているし、炒め物にはちゃんと火が通らず生焼けだ。好き嫌いがなく何でも美味しく食べることが取り柄のオレが、残さざるを得ないという事態に陥ってしまった。ばあちゃんの作る料理が好きなオレにとっては、まさしく非常事態だ。  ただ、いつもこんな状態じゃなくて、たいていはいつも通りしゃんとした料理上手なばあちゃんだ。五回に二回くらい、ばあちゃんはおかしくなるのだった。
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