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また夜が明け、実くんの熱は下がった。でも大事を取って今日も学校を休むようだ。僕は今日も実くんのそばにいようと思った。兄さんを探すのは、実くんが完全に元気になってからでいい。
「僕はもう平気なんだけどね。お母さんは心配しすぎなんだよ」
熱が下がった実くんは、昨日より少しだけ饒舌だ。
「今日もまた、じろうくんのお話を聞かせてほしいな」
そう言って実くんはベッドの上に身体を起こし、僕を掌に乗せてくれた。そして、僕の目を見つめた。実くんの澄んだ瞳に吸い込まれるように、僕は静かに、そしてなめらかに話し始める。
幼い頃から病気がちで学校をよく休むので、なかなか教室に馴染むことのできないミノルくんの物語。ある日、ミノルくんはほんの少しの勇気を出して隣の席のツヨシくんを遊びに誘ってみる。ツヨシくんは戸惑いながらもミノルくんと遊んでくれる。少し乱暴だけど本当は優しいツヨシくんは、ミノルくんが疲れたらそっと寄り添って背中をさすってあげる。その日からミノルくんとツヨシくんは親友になる。実くんの心の奥底、一番繊細な部分に届くように、僕は精いっぱいの気持ちを込めて話をした。
「僕の隣の席、剛志くんっていうんだ……。僕も、そんなふうにできるかな? 勇気、出せるかな?」
実くんのまっすぐな瞳がそうさせたのか、僕は何の迷いもなく友達の名前をツヨシくんと名づけていた。
「うん。実くんなら、きっと、できるよ」
僕は実くんの目を見つめて、一言ずつ力を込めて言った。
「……うん。僕、剛志くんに話しかけてみる」
少し不安そうな実くんに、僕はにっこり笑いかけた。
僕が実くんの家に来て三日目の朝、実くんはすっかり元気になった。登校の支度をする実くんに向かって僕は言った。
「僕、学校まで一緒に行こうか?」
「ううん。僕、ひとりで頑張ってみる」
実くんは、ひとりで頑張ることを決めた。僕は通学路の途中の公園まで、実くんに連れていってもらうことになった。公園まで五分。あっという間にお別れだ。
「ありがとう、実くん」
「じろうくん、ありがとう」
僕は泣きそうになったが、厚紙でできているので泣いたら壊れてしまう。必死に涙をこらえて手を振った。実くんも大きな目に涙をいっぱい浮かべていた。
「また、図書館で会おうね」
「また、図書館に行くね」
最後はふたりで同じ言葉を同時に言って、笑顔でさよならした。
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