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遥香ちゃんが立ち上がってくるっと身体の向きを変えたその時だった。女の子がひとり、公園に入ってきた。女の子はまっすぐに遥香ちゃんの前まで走ってくると、はあはあと苦しそうに胸を押さえた。苦しそうに肩で息をしているその女の子が誰なのかは、訊かなくてもわかった。
「可奈ちゃん……!」
ようやく息を整えた可奈ちゃんが、手に持っていた紙袋を遥香ちゃんに差し出した。
「遥香ちゃん、お誕生日おめでとう!」
「えっ? これ、わたしのために?」
遥香ちゃんは、戸惑いながらも紙袋を受け取った。
「誕生日に間に合ってよかった。ごめんね、最近わたし一緒に帰らなくて」
可奈ちゃんは、まだよく状況をつかみ切れていない遥香ちゃんを、さっきまで僕が休んでいたベンチに促した。ふたり並んでベンチに座る。僕はブランコに乗ったまま、ふたりを見守る。可奈ちゃんは、遥香ちゃんの持つ紙袋から二枚の手提げバッグを取り出し、一枚を遥香ちゃんに手渡した。遥香ちゃんは、じっとバッグを見つめている。その顔が、どんどん輝いていく。
「これ、可奈ちゃんが?」
「うん。わたしね、遥香ちゃんの誕生日プレゼントに、お母さんに教えてもらってバッグを作ったの。ほら、わたしのお母さんお裁縫得意だし。それに、遥香ちゃんのバッグ、持ち手が取れかかってたでしょ? それで、完成したバッグを見ていたら、わたしもおそろいのがほしくなっちゃって。遥香ちゃんの誕生日にどうしてもおそろいで持ちたくて、毎日早く帰って作ってたんだ」
言いたいことを一気に言い尽くした可奈ちゃんは、満足そうだ。
「そうだったんだ。このバッグ、とってもかわいい! 色もわたしの好きな色で作ってくれて……。ありがとう、可奈ちゃん。ねえ、可奈ちゃんのも見せてよ」
きゃっきゃっと笑いながらバッグを見ているふたりの姿を、僕はブランコから微笑ましく眺めた。遥香ちゃん、可奈ちゃん、よかったね。
おそろいのバッグを手に持って、ふたり仲良く帰るようだ。遥香ちゃんは公園から出る時、僕の方を振り返って笑顔で手を振ってくれた。僕も大きく手を振り返した。
また僕はひとりになった。昼頃まですっきり晴れていた空も今は雲が一面に広がり、冷たい風も吹き始めている。今にも雨が落ちてきそうな空を見上げ、僕は急に心細くなった。胸がぎゅうっと苦しい。もう兄さん探しは諦めよう。住み慣れた暖かい図書館に、一時間でも一分でも早く帰りたい。僕は急いでブランコから飛び降り、公園を出て歩き出した。
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