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「うわあっ!」
突然吹いた強い風に、僕は吹き飛ばされてしまった。落ち葉と共に風に舞い、軽い僕の身体は簡単に飛ばされていく。
「痛い!」
僕は地面に叩きつけられた。相当遠くまで飛ばされた気がするが、ここはどこ? 幸い頭は強く打っていないらしく「僕は誰?」とはならずに済んだ。身体の痛みもようやく治まり、僕はのろのろと起き上がる。めまいがして、身体がふらふらする。何とか身体を立て直してあたりを見渡すと、意外にもそこは僕のよく知っている場所だった。僕は生まれ故郷の図書館の前の通りにいたのだ。
図書館は、50メートルほど先に見えている。たった数日間離れていただけなのに、とても懐かしく感じる。早く、急いで、早く、早く! もつれるように僕は走り出す。そんな僕に、悲劇が襲いかかった。
とうとう雨がぽつぽつと降ってきたのだ。人間にとってはお湿りほどの雨だが、厚紙とひもでできている僕にとっては大雨だ。雨に濡れ、どんどん身体が重くなっていく。手足も濡れて重くなり、重心がおかしい。うまく走れない。でも、たとえ走れなくなっても、僕は歩き続けるんだ。病弱な身体で毎日一生懸命頑張っている実くんや、すっかり仲直りして冗談を言い合う遥香ちゃんと可奈ちゃんの笑顔が思い浮かんだ。友達になった子どもたちを思い出して心に力がみなぎったのもつかの間、さらに足取りは重くなるばかりで、とうとう僕は図書館の入り口近くで力尽きてしまった。もう一歩も前に進めそうにない。
「眠ったらだめだ……」
必死に眠らないようにするが、意識はどんどん遠のいていく。今、僕の目から流れているのは涙か雨か。どちらにせよ僕の目はもう開きそうもないから、せめて兄さん、声だけでも聞かせてよ……。
「あれ? こんなところに落ちてたのか」
神様は最後まで僕を見放さなかったのか。僕は突然、何か温かいものに触れられ、包まれる感覚を覚えた。最後の力を振り絞り、ゆっくりと目を開ける。懐かしい顔がそこにあった。僕の姿を作ってくれた坂本さんだ。坂本さんの胸に抱えられた時、ちょうど目の高さに名札があった。
──坂本太郎
うん? 坂本太郎? 坂本さんの名前は太郎だったの? 何だ、そういうことだったのか。まさに灯台下暗し。ようやく僕は全てを理解することができた。
「お兄ちゃん……」
僕はそうつぶやくと、やっと心の底から安心して目を閉じた。僕の声は、大人の兄さんには届かないようだった。
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