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夫は、難病にかかっている。
体の自由が利かなくなると同時に、脳が萎縮している。
体も思考も、正常ではなくなってきている。
今日は腕や脚が張っていなくて、
外に出たり、人前に出るときは、基本的に調子がいい時だけだ。
「何を歌うんだ? 俺は久しぶりにあの歌が聞きたい」
「えー。ワタシの唯一売れた歌のこと? 今日は気分じゃない」
「それはザンネンだ」
「それよりも、アナタも何か歌う?」
「いや、いいよ。今日はキミの歌を聞きたい」
「……そう」
ワタシが少し不服そうに言うと、ダメ夫はにへらと笑った。
とてもやさし気な笑みだ。
でも、ワタシの胸は切なげにキュッと苦しくなった。
優しく見えるのは、威圧感がないからだ。
気力がないんだ。
声に力がないんだ。
難病のせいで、大分弱ってきている。
(難病、か……)
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