15年前 初めてだらけのカラオケで

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 夫は、難病(・・)にかかっている。  体の自由が利かなくなると同時に、脳が萎縮している。  体も思考も、正常ではなくなってきている。  今日は腕や脚が張っていなくて、  外に出たり、人前に出るときは、基本的に調子がいい時だけだ。 「何を歌うんだ? 俺は久しぶりにあの歌が聞きたい」 「えー。ワタシの唯一売れた歌のこと? 今日は気分じゃない」 「それはザンネンだ」 「それよりも、アナタも何か歌う?」 「いや、いいよ。今日はキミの歌を聞きたい」 「……そう」  ワタシが少し不服そうに言うと、ダメ夫はにへらと笑った。  とてもやさし気な笑みだ。  でも、ワタシの胸は切なげにキュッと苦しくなった。  優しく見えるのは、威圧感がないからだ。  気力がないんだ。  声に力がないんだ。  難病のせいで、大分弱ってきている。 (難病、か……)
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