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「和人、俺たちは別の所を探すから」
「大丈夫ですよ、たぶん」
「いや、どう考えたって大丈夫じゃない」
「智樹さん達が座ってくれた方が友達も喜ぶって言うか」
「どういうことだ?」
「じゃあ、あれだ!僕の指示に従うことがぁここ座る条件です」
「は?」
「ア、指示来ました」
明るい表情でパッと和人がスマホから顔を上げたと思ったら、彼は食堂の端の方を見つめるようにぐうっと顔を顰めた。
「指示?」
「なんだそれ」
「それが条件か?」
こちらを和人は振り返り、笑顔で手を振る。そしてスマホをじっと見つめて、顔を上げてを少し繰り返した後に、
「あー、、や、唐揚げ……唐揚げのため」
普段からは想像できない雰囲気で、和人はボソボソ何かを呟いていた。
「はぁ?」
「あ、気にしないでください。」
ちらちらと食堂の端を見ながら、今にも座りそうな伊庭に指示を出した。
「そこ、隣同士に座ってくれます?」
伊庭は普段あまり周囲を気にしない和人の人の目を伺うような素振りにただならぬものと強烈な違和感を感じた。
「早く」
「とりあえず座ろうぜ」
「祐希、それでいいのか」
上げた声も届かずに、ふんふん首を振りながら指示に従う祐希。
「……あ、うーん。不本意なんですけど、先輩方って、もうちょっと近づけます?」
「こうか?」
「おい祐希…」
祐希に肩を掴まれてグゥと引き寄せられる。薄いワイシャツ越しに熱い手のひらを感じ、彼の長い睫毛に縁取られた、強い瞳がこちらを向いたとき……まるで催眠術にかけられたように抵抗する気がサッと失せて。
伊庭はまァ、なるようになるかな。と思考を放棄した。
「いつまでこうしてればいい?」
「……食欲に負けた自分が悔しいです 」
「和人?」
「でも唐揚げ……ステーキ……」
なんだか返事もおかしい。伊庭は不思議に思ったけれども口に出さない事も優しさだと考えて唇を噛んだ。
「いや、和人。いつまでこれ続けるんだ?」
祐希の問いかけにようやく和人が反応した。
「……からあ、ェ、あ、確認します」
伊庭は微動だにせずと二人の会話を聞いて、その後に1度瞬きをした。なんだか時間に取り残されたような気分だった。
「あっ、連絡来ましたよ。写真が撮れ…あ、間違えた。もう大丈夫っぽいです」
「え、写真……?」
「こっちの話ですよ」
パッパッと手を振ってなんでも無いと和人は示すけれど、それを見てコイツは一体全体どんな奴とつるんでいるのかと、伊庭は後輩の交友関係が少し心配になった。
眉を寄せる伊庭の表情に、そんなに腹が空いたのなら早く食べれば良いものを……と、全くもって見当違いなことを思う阿呆、つまり篠原祐希は伊庭の袖を引く
「食べないのか」
「いや、食べるけど」
「ふん」
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