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鼻を鳴らして、そのまま食事を続ける祐希にこの子は何がしたかったのかなぁ、と伊庭は不思議に思う。
でも、声をかけるのも…と、考え彼は大人しく隣に座ってサンドウィッチを口に含んだ。
「おおっ、先輩方助かりましたー!」
立ち上がって食堂の端っこにOKサインを送る和人、ガタンと大きな音が立つ。はた迷惑な奴だと伊庭はサンドウィッチを噛みきる。
「随分元気だなァ?ええ?」
「お二人のおかげで、今日のランチは特別に豪華になりそうですよ!」
「ウン…?何よりだよ」
何一つ理解はできなかったけど、後輩が満足そうならいいかな。と、あまっちょろい事を伊庭は思う。
「じゃぁ、僕はこれで失礼します。食事楽しんでくださいー!」
びゃっと飛び上がって和人は駆けていく、その去り際の笑顔に幼子じみた物を感じた。彼が出口付近で少し小柄で人畜無害そうなな生徒に飛びついているのを見て、友達は、そこまでおかしな奴でもないのか…?和人の友達がよく分からなくなる伊庭だった。
「智迅、時間まずいぞ」
「わ、俺まだ全然食べてない」
祐希の声にハッとしてモソモソと続きを食べる。こういうときに、サンドウィッチだとあっさりしていて食べやすいから嬉しい。
「まだか」
「ウン、もうちょっと」
急かす祐希の皿はもう綺麗になっていた。
お前、ちゃんと噛んだんだろうな?じゃないと噛まないと後でしゃっくり地獄だぞ、と内心思ったけれど声には出さずにただひたすらにサンドウィッチを頬張る。
やがて祐希がやれやれと首を振って立ち上がったのを見て、伊庭も追うように最後の一口を詰め込んで席を立った。
「よし、祐希行こう」
「ウン」
お盆を返すと、おっちゃんは笑顔で学校頑張ってねと応援してくれた。伊庭はハイッと、威勢のいい返事を返して食堂を出た。
うちの学校は、寮と食堂とそれぞれの教室が長い渡り廊下で繋がっている。寮から食堂まで歩いて10分、食堂から教室まで歩いて7分といったところであり少し遠いのが難点だ。
硬くて冷たい廊下に2人分の靴音が嫌に反響した。マ、それはそうだ。時間が時間だものもう誰も歩いてないに決まってる。
2人はパタパタと渡り廊下を走り抜ける。揺れる肩からカバンがずり落ちるのがとっても忌々しい、
「あーっ!長いよ廊下が!」
「仕方ないだろう」
「設計者ほんとに恨むぞ」
「物騒だなお前」
長い長いとうめきながら階段を走るとだんだん教室が見えてくる。二年生一組の標識まであと少しだ、息を吸って足に力を入れた。
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