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「お前が入ってくる前だなァ……たしか」
「何がです?」
「えっと、俺が二年生にも関わらず……今現在風紀委員長な理由と、俺がこんなに熱くなっちゃうわけ」
「ほぉ?」
和人は好奇心が刺激された様子で伊庭の手を持ち上げて頭からどかした、そうしてからカップルの破局を見物する悪趣味な野次馬顔で伊庭の顔を覗き込む。
「そんなに期待すんなって」
「え、自分そんな顔してます?」
「してるしてる」
エエッと声を上げて和人は退いて、ガッカリしたような顔をした。それがたまらなく面白くて伊庭は声を上げてちいさく笑った。
「実はなァ……」
伊庭が声を潜めるので、和人は一人ドキドキしながら、手で口を覆う
下を向く伊庭がゆっくりと口を開いた。前髪に隠されて表情は見えない分、何時もの会話よりも更に、圧迫感や緊張感が張り詰めるように感じる。
「まず、二年生の俺が先輩方を差し置き風紀委員長を務めている訳は……前風紀委員長の指名と推薦があったからだ」
「あーっ!先輩が特別すごい手柄を立てたからです?」
「逆だ逆」
予想外な事を言われ、言葉にウッと詰まる和人に伊庭は軽く目を細める。髪越しに見る彼はちょっとだけ困った顔をしていた。
「えーっと逆?……何もしてないから?」
和人の困惑し切った声が不安そうに揺れた。
「……端的に言うと、まァなにも出来なかったっていう事」
「ぇ、じゃあなんで指名されたんですか?」
正解して調子を取り戻したらしい和人が元気よく聞いてくる。1年生の彼はまだこの学園の異常性を身をもっては体験していない分、無邪気だ。
「ウン、うちの学園はチョコっと頭がおかしいだろ?」
「あー、そうですね」
「普通の学校では暴行は起こらん」
「あっ……たしかに?」
「まずまず、家柄によるカースト制は無い」
「……それもそうだ?」
この学園はいわゆる名門校というやつで、家柄のよろしいお坊ちゃんたちが多く在籍している。そして、そのお坊ちゃんたちは恐ろしい事に親の七光りを振りかざして、弱いものイジメを始める。
親が権力者……それも権力が高ければ高いほどにこの学園で地位が高い。逆に一般家庭の出身者は地位が低く、そういう対象になりやすい。
「で、俺たち風紀委員の仕事は?」
伊庭はまたパラパラと指を組み変え無機質な声で尋ねる。その声の硬さに和人は思わずブルっと身震いをした。
「それらの防止……ですよね」
「正解」
「まァ、それくらいは分かりますよ」
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