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和人は反応に困って目を伏せ思いを馳せる。やはり今日の先輩はちょっとオカシイな 、いつにも増して威圧感強いし情緒不安定だ。
「では、それらを踏まえてこの学園の風紀委員長にもっとも向いている人とは」
「腕っ節が強い人?」
「違う」
「えー、家柄が高い人?」
「違うな」
和人は眉を下げて困った顔をした、学園を守る風紀委員長は強くないと、務まらない。この学園の強者とは家柄か、単純な力だと思ったのだけど。
「……えっとォ……あーっ!」
「うん?」
生徒みんなを躾ける、そう考えてパッと浮かんだのは真っ赤なピンヒール履いた女性で、彼女は和人の脳内でカツカツとヒールを鳴らしながら大股で闊歩していた。
「鞭が似合う人でしょ?」
「そんなら今頃、風紀委員長はきっとSM嬢が務めてるよ」
伊庭がハァっと、大きなため息を吐く。
「……降参です、コウサン」
サッと両手を上げた彼を見て、伊庭は意外と早い降参だなと、残念に思う。
「正解は……被害者の気持ちが分かる人だ」
「……?つまり」
ゆっくり瞬きをして、スッと口で大きく息を吸う。これは……おそらく彼の中でイマイチ合点がいっていない、伊庭はそう結論ずけてもう少し分かり安い言葉を選ぶ。だか、直接的な言葉はどう彼の心の柔い部分をえぐってしまっていけない。
顔を上げられないまま伊庭は少し考えてから言葉を発した。
「そう、被害にあったことのある人間」
「えっと、じゃあ先輩は……」
和人の問いかけに伊庭はゆっくりと顔を上げた。それからたっぷり一呼吸ぶん間を空けて
「そういう事だよ」
そう言った口元は少し震えていた。
「あ……あぁ、ごめんなさい」
和人は目の前の彼が人間じゃない何がに見えてしまって、咄嗟に言葉を紡いだ。先程よりも随分赤くなった日が彼をとっても艶めかしい妖怪に見せたのだ、傷ついてなお立ち上がろうとする美しい生き物に。
「なぜ謝る」
「……い、言わせちゃって」
「気にするなよ」
何も言えなくなって、和人はダラりと腕を下げたまま唇を噛む。
「気にするなって」
伊庭はそう耳元に囁いて、優しく自分よりも一回り大きい和人を抱きしめた。自分の存在を伝えるために。
「…僕が気にします」
悔しそうな声でそう言って、和人はそろそろと腕を上げて伊庭の事を力一杯抱きしめた。
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