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「なぁ祐希、寝癖すごい」
「ああ、直らなかった」
「努力は?」
「した」
ウン、すぐには部屋を出られそうにない。
伊庭は特大のため息をついて椅子から立ち上がり、祐希と向かい合う。やはり、こいつ不器用だ。
「お前なぁ、」
「智迅、人の事をお前と言うな」
「ウン、とりあえず寝癖」
祐希は素知らぬ顔で別に大丈夫だろと言う。そのため伊庭はツインテールにでもしてやろうかと目の前の男を睨み付けるのである。しかし、手先も頭もぶきっちょなこの男。毎朝、寝癖を直してやる伊庭の気持ちを分かっちゃいない。ただ、お前は寝起きがやたらと怖いな。低血圧か?と可哀想に見つめてくるので伊庭は無性に目の前の寝癖を引っ張り抜きたくなる。
「俺はとっくの昔に起きてるんだよ」
「嘘つけ」
「……とりあえず洗面所いく」
歩き出すと素直に着いてくる仕草だけはかわいげがあるのになあ、と伊庭は思う。冷たい床は良い眠気覚ましで、段々と目の奥がスッキリしてきて、視界が開けてくる。久しぶりの清々しい朝にめいいっぱい背伸びした。
大きな三面鏡の洗面台に着くとまずは祐希の頭に水を被せる。そして適当に手ぐしで寝癖を直して近くの椅子に座らせ、ドライヤーをかける。これは何となくでいい。祐希は髪をガッチリ決めすぎない方が似合う。最後に輪ゴムで左右にひと房ずつ取って結ぶ。ところがどっこいツインテールのつもりが、昆虫の触覚みたいになってしまった。
「おまっ、んふふ、はは、可愛いなぁ」
「は、これではゴキブリじゃないか」
「気のせいだッふふ、あはは」
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