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例えばそれは
「パチン」
黒い部屋の中で若い男の声がした。ついで聞こえるブゥーンという羽虫の羽ばたきのような蛍光灯の音。
パチパチと火花が弾けて、暗闇を照らした。
「アレッ、来てないの?」
黒い服に身を包んだ男は、首だけをぐるっと回して薄暗い室内を見渡す。
男は西洋人のような、高い鷲鼻を持ち、
男は異界人のような虹彩の瞳を持っていた。
とびきりに長い手足を余らせるその男は、部屋中央に置かれた3つの木箱に話しかける。
「おかしいな、時間はぴったりなのだけど」
彼は3つの木箱の1番左に腰掛けた。
「なぜなぜ、はてな」
チッ、チッ、チッと蛍光灯が点滅を繰り返し、黒いコートの男はまるで灯りに寄ってきた大きな蛾のように見える。
彼が腕の時計を見る。しかし、彼が身につけたそれは時間を示すはずの文字盤がついていなかった。
「アレ、アレ、どうしてかしら」
困ったように男は立ち上がって木箱から立ち上がり、室内をぐるりと旋回した。
「アレ、アレ」
そう言って男は空色の扉に近づき、開いた。
「パチン」
蛍光灯が低いうなりを立てて、消えた。
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