5人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
レナの家は川向うの建売住宅群ではなかった。
その奥の入り組んだ住宅街の一軒で、近くで見ると古いが大きな洋風の邸だった。
「今、家族はいないんだ」
とレナは玄関を開けてくれながら言った。
玄関は広いホールになっており、美紀は緊張しながら靴を脱いだ。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
レナが牛乳を温めて持ってきた。
匂いを嗅いだだけで、仔犬は困ったように小さく尻尾を振った。
二人は仔犬の体を拭き上げ、擦って温めたが仔犬は目をつぶってじっとしているばかりだ。
仔犬が弱ってしまうのを、美紀とレナは手もなく見守るしかなかった。
「やっぱり、病院へ連れて行かないとこのままじゃ…」
「家に戻る?」
美紀は頷いた。
ママに頼んで動物病院へ連れていってもらうしか、仔犬を救う手はなかった。
「家に戻ったらママに怒られるんじゃない? 仔犬もまた親戚へやられちゃうかも」
「それでも、命が助かるならそのほうがいい」
美紀は意を決して仔犬を抱き上げ、玄関へ向かった。
「そっか、そうだよね」
レナはいつものように美紀の意見に賛成してくれた。
美紀は仔犬を抱いて、レナの家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!