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「美紀!」
家に戻ると、ママが泣きながら心配していた。
「ママ、ごめんなさい。どうしてもママに助けてもらいたいの」
ママは美紀の抱いている仔犬を見てその汚れ具合に絶句したが、動物病院へ連れて行ってほしいという美紀の願いを叶えてくれた。
仔犬は動物病院での治療と、美紀の懸命な看病のおかげで一週間ほどで元気になった。
名前はレナと一緒に考えようと、美紀はリードを付けた仔犬を連れてレナの家を訪れた。
呼び鈴を何度も押し、門の前で待ったが赤い屋根の家は無人だった。
「その家は昨日引っ越して行ったよ、息子さん夫婦の近所に住むことにしたって」
隣の家のおばさんが、庭を掃きに出てきて教えてくれた。
「女の子? さあ、見かけたことはないねぇ」
おばさんは首を傾げた。
「レナっていう同じ年の…」
美紀はびっくりしてそれ以上言葉が出なかった。
そういえば、苗字も知らない。
どんな服をきて、どんな顔だったっけ。
レナの顔も声もどんどん記憶から削られてゆくようだった。
そうだ、ポニーテール。
水玉のシュシュで結んだポニーテール。
足元で跳ね回る仔犬の尻尾を見て、美紀はやっとそれだけを思い出した。
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