優しい友達

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 あれからもう何十年になるだろう。  あの時の仔犬にはレナのレと美紀のキを合わせて「レキ」と名前を付けた。  レキはやんちゃで手間のかかる仔犬だった。  美紀は毎日の散歩、トイレの始末、ご飯の用意と懸命に世話をした。  レナがいなくなった寂しさを埋めるように。   「先生、助けてください」  ある夜、美紀の動物病院へ急患がやってきた。  濡れた仔犬を抱いた女の子だ。 「すっかり冷え切っているわね、でも大丈夫、きっと助かるわ」  美紀は仔犬を女の子から受け取り、診察台へ乗せた。 「先生、どうかよろしくお願いします」  「承知しました、力を尽くします」  母親と女の子が診察室を出て行った。  入れ違いにもう一人、女の子が入ってきた。  水玉のシュシュでポニーテールを結い上げた快活そうな女の子だ。  美紀は不意の再会に息をのんだ。 「レナ」 「美紀、動物のお医者さんになったんだね」 「うん」 「いっぱい勉強してたもんね」 「レナ、急にいなくなっちゃってびっくりした」 「ごめんごめん。でも、あの時、仔犬を助けたいって立ち上がった美紀を見て、もう大丈夫だなと思ったんだ」  とレナは嬉しそうに笑った。 「もう一度、会いたかった、お礼が言いたかったの」 「うん、あたしも」  美紀は涙で視界が曇るのを感じた。  クゥーン  診察台で仔犬が鳴いた。  はっとして診察台を見て、もう一度視線を戻した時にはレナの姿は消えていた。  きっと、今はあの女の子の友達になっているのだろう。  ありがとうと伝えられてよかった。  美紀はほほえみながら仔犬を撫でた。  仔犬は少し、レキに似ていた。        
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