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アパートの入り口付近の掃除をしていると、こんにちは、と声を掛けられた。振り向くと、アパートの住人の男がこちらを見ていた。大学で、準教授だったか、植物の研究をしている男だった。こんにちは、と返事をしながら、ああ無事だったのだ、と思った。海外から帰ってきたときに少し話をしたけれど、その後しばらく顔を見ていなかったから、海外で何か病気でも貰って来たのではないかと心配していたのだ。
彼は出かけるようで、私の方に近づいてくる。何故か私は、彼の事が怖く感じられた。これまで彼にそんなことを感じたりはしなかったのに。彼がすぐそばまで来て、そしてその原因に気付く。彼の目つきだ。目つきが違う。彼はもっと優しい目つきをしていたはずだ。それに。どことなく、顔色が不自然に感じられた。赤い、というよりは黄色に近い、いや、橙色のような肌、そして、頬に黒ずんだ痣のようなものが見えた。
どうかしましたか、と聞かれ、私は声を出せず、首を振るしか出来なかった。彼は歩いていき、私はその後姿を見送る。やはり何かあったのだろうか。いや、気のせいだ、と、私は思うことにした。そう、きっと気のせいなのだ。
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