響く声とその主

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響く声とその主

 穏やかな昼下がり。ゆったりと過ごす者が多い中、一人静かな部屋でパソコンに向き合う男がいた。  カチャカチャとキーボードのタッチ音が響く。時折、誰かが用事で話しかけにくるが、淡々と必要事項を手短に話して終わり。  齢18歳の学生研究員の(はるか)は、一人静かに画面と向き合う時間が圧倒的に多かった。  同年代の高校生たちは、親や友人との付き合いがあり、それなりに充実した学校生活を送っているだろう。  対して悠は、この研究所で日々を過ごしている。研究所の主な活動時間は、朝8時から夕方5時までとなっているが、そんなのは建前でほぼ24時間の拘束だ。学生研究員である悠も例外ではない。毎日研究やレポートをこなしていれば時間は勝手に過ぎていくのだが。  といっても、そんな研究レポートを毎日提出するのは簡単ではない。  日々新たな発見があったり、思いついたアイデアがある度にメモを取るのだが、それを資料としてまとめ、更には考察までする。  それほどまでに大変なことを文句もなくやり続けるのには理由がある。  自分より一つ年下の女の子、(あきら)に賛辞をもらえるから。  玲の目に止まり、「すごいな」と一言褒められる。そのたった一言で悠の心は満たされるのだ。  だから今日も悠は、玲のために、そして自分の欲求のためにと研究を進める。 「あれ?おまえ、またここに籠ってるのか?」  不意に耳に入った声。顔を見なくてもわかる。玲だ。 「今日も熱心だな。その集中力には恐れ入るよ」  言葉遣いから察するように、玲は男っぽく、それでいて勝ち気な面がある。悠を含め他にもいる癖のある男共を率いるその姿は、みていて清々しい。  悠はそんな彼女に心酔している。 「これはこれは、女王陛下。こんな何にもないところへわざわざお越しくださりありがとうございます」
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