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ハッピーエンドにはならない、お姫様とは結ばれない相手。
むしろ、お姫様が愛しい人と結ばれるためにあれこれ動く裏方のような、そんな……損な役回り。
でも、いいじゃないか。
それで、彼女が笑えるなら。
自分にはもったいないほどの栄光だ。
愛しい気持ちで眺めていた悠に気づいた玲が振り向いて、その名を呼ぶ。
「行くぞ、悠!」
悠にとって玲は特別だ。それでも、この想いは報われない。
玲にとって、悠は大切でも、唯一ではないから。
けれど、そんな玲に名前を呼ばれるだけで幸せを感じられるのだから、自分はなんて単純なんだろうと悠は思う。
「俺は本当に幸せ者だな」
悠は小さくそう言って笑った。
***
いつものように悠は一人パソコンと睨めっこをして、周りの雑音に顔を歪めながらも、やるべきことをこなす。
「お!いたいた」
そこに現れた玲の声は、いつものように弾んでいて、悠は安心する。玲の声はやはり心地よい。
「ちょうどよかったよ、今時間あるか?」
そう問われたので、悠はすぐにパソコンを閉じた。
「大丈夫ですよ」
悠の言葉に玲は嬉しそうに笑って手を差し出す。これはいつもの合図だった。悠はその手を握り返すと玲に付いていく。
ついた場所はいつもの原っぱだ。柔らかな風が二人の髪を揺らす中、玲は口を開く。
「あのさ……ありがとうな。悠にはいつも背中を押してもらってる」
「当然です。貴女は俺の姫ですから」
悠が微笑んで言うと、玲は照れたように頬をかく。そしてすぐに真剣な眼差しを向けた。その目力に悠はドキリとする。
「これからもずっと側にいてくれるか?」
「もちろん。貴女が望むならどこへでもお供しますよ」
「そっか……悠がいて、本当によかった」
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