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「その女王ってのやめろって何回も言ってるだろ」
「それでは、姫とお呼びしても?」
「却下。相変わらずだな本当に」
芝居がかった悠の振る舞いに玲は呆れつつ、悠の隣の椅子に腰掛ける。そして、パソコン画面を覗いてくる。
「また何か研究しているのか?今度は何?」
「はい、これはですね……」
悠は説明を始める。玲はそれを静かに聞きながら時折質問をする。その時間が悠にとっては至福だった。
玲が自分を見ている時間が増えるから。
「なるほどな、やっぱり悠はすごいな」
玲の声が、悠の耳に入り脳まで辿り着く。その心地よさは格別だ。
「そんなことはありません。私はまだまだです」
「いや、悠がすごいことは私が一番よくわかってるよ。私はおまえのこと、尊敬してるんだから」
玲は少し気恥ずかしそうに視線を逸らした。その反応はずるいと悠は思う。
玲はいつもそうだ。無意識で煽ってくる。それが天然だから始末に負えない。
「いつもそうやって努力してくれてるの知ってる。ありがとうな」
「いえ……お役に立てているなら何よりです」
玲の笑顔が、眩しい。それをみて悠は自分には勿体無いくらい、玲は綺麗だと思った。
見た目ではない、心がだ。
だからだろうか、他の者よりも玲の声は悠の耳によく届く。
学生研究員の悠は仕事が忙しく、耳に入るのはいつも自分のキーボードのタッチ音と他人の喋る不快な雑音だけ。
そんな日常に嫌々ながらも流されていた悠は、ただ一人だけ、玲の声だけはクリアに耳に入っていた。
綺麗な声だとか、言葉がイイとかそういうのではなく。
ただ、スッと耳に残る。
自然に心に入ってくるそれ。それをいつまでも聞いていたいが、無理な話で……悠は次に聞こえた声に顔を歪めた。
「おーい、玲」
それは、玲の一番近いところにいる男の声。
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