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わざとらしく口元に弧を描いて言う悠に玲は呆れたように笑う。
「またその呼び方するー」
「貴女は俺にとってそれほど尊い存在だということです」
「だからってなぁ……まぁいいや。悠、ちょっと歩かないか?」
「もちろん。僭越ながらエスコートさせていただきます」
悠が手を差し出すと、玲は躊躇いもなくその手を取った。それに嬉しくなり、悠は少し手に力を込めると玲も握り返してきたのでさらに心が踊る。
「そういや、また最近部屋に籠りっきりって聞いたけど大丈夫か?」
「俺は平気です。ですがそうしている時間が長いのは事実ですね」
「そっか……」
そこで会話は途切れてしまう。しかしそれは気まずいものではなくて、ただ心地の良い沈黙だった。
そのまましばらく歩き続けると、前にきた原っぱに辿り着く。玲は手を離して伸びをする。
離された手の温もりに寂しさを感じつつ悠は玲の隣に立った。
「いいところですね」
「だろ?この景色が見たくてさ、たまに来るんだ」
悠の言葉に玲は嬉しそうに笑う。その笑顔に悠の鼓動は高鳴るばかりだ。
「気に入っていただけて何よりです」
「……うん、ここはお気に入りだ」
そう言ったきり黙り込む玲を不思議に思いつつも、悠はただ黙って隣に立っていた。暫くして不意に玲の口から出てきた言葉は意外なものだった。
「なぁ、悠……私はちゃんとおまえらに恥じないように立ててるかな?」
玲にしては珍しい弱気な発言に悠は戸惑う。しかしすぐにいつもの様子に戻り、笑顔でこう言った。
「勿論ですよ」
それに玲も笑って返す。
「ならいいんだ」
そう言って笑う玲の表情はやはりどこか寂しげだった。しかし悠はそれを口にはしなかった。否、できなかったのだ。
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