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それからというものの、玲が時折見せる儚げな表情に悠の心は乱され続けていた。そんなある日のこと……いつも通り過ごして、玲に声をかけられ、また二人で話をする。
玲の思い詰めてる表情の理由は正確にはわからない。けれどここ最近の玲の言動で悠には見当がついていた。
玲は王様の彼や騎士の彼に心配をかけたくないのだ。あの二人は少し過保護なところがある。大切であるが故に、玲を守ろうとする。
きっと玲はそれが心苦しいのだろう。強気な彼女のことだから、一人で頑張ろうとしているはずだ。
悠はそう思うと自分の立ち位置を冷静に分析する。自分はこうして今そばにはいるが、弱い姿は見せてもらえない。
なんだかんだいって、玲が弱音を吐ける相手は自分ではない。きっと王様や騎士の彼なのだ。
本当は、玲に求められたい。自分が一番だと、思いたい。でもそれは叶わない。それがわかっているから、余計に苦しい。
「玲、貴女はとても頑張っている」
「そう、か?」
玲の顔が歪む。決して涙は見せない姿に敬意と寂しさを覚えて悠は、ただ微笑んだ。
「はい、貴女は素敵です。とても。……だからどうか無理だけはなさらずに」
玲の心が壊れてしまわないように、そっと抱き寄せた。しかし抵抗はなく、むしろ甘えるようにすり寄ってくる玲に悠の心は満たされていく。
「ありがとう……」
小さく呟かれた言葉に悠は胸が締め付けられる思いだった。
***
ある日、玲が誰かと言い争う声が聞こえた。嫌な音だなと悠はパソコンから顔を上げて、そっと部屋の扉に近寄り廊下でやりとりされる言葉に耳を傾ける。
それは王様である彼と玲の喧嘩のような言葉のキャッチボール……いや、むしろドッジボール。時折、柔らかな声が仲裁に入る様子から騎士様もそこにいるのだろう。
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